兎面
「優秀な軍人は経験と立場によって作られるものだ。天才などいない。しかし優秀な人間を作ることはできる」
「つまり……?」
私の問いかけにベルナールお兄様は笑った。
「アルノーを将軍として取り立てようと思う」
あー、なるほど。アルノーか。
私の護衛任務によくついてくれている優秀な兵士だ。
以前、彼の出身の村を訪問したときは得体の知れない妖怪に襲われたけど、彼がなにをしたわけじゃない。むしろ彼の指示のおかげで命拾いした
私にとっても気心が知れているし、部隊の他の隊員からの人望も篤かった。
彼はもともとベルナールお兄様の直属だったから、ずっと様子を見ていたというところもあるのだろう。
「アルノーさんでしたら、私とも気心知れていますし反対する理由はないですね。でも1人で足りますか? 先ほどベルナールお兄様がおっしゃったように現在、ペドレッティ伯爵家は大変に裕福になっています。これは勢力が大きくなって管理運営も大変だということ……あと何人か取り立てた方がいいのではないでしょうか」
「うーん、そうはいうがな……」
ベルナールお兄様は苦笑を浮かべる。
「そう、俺の目に止まるやつがいるわけじゃない。セリーヌの意見は違うかもしれんが、俺の目につくのはとろあえずアルノーだけだ」
人数はほしいけど無能を飼う余裕まであるわけじゃない、か。
「とりあえず、今のところは保留にしましょうか。即戦力がほしいのは事実でしょうから」
私の呟きにベルナールお兄様が「いいことを考えた!」という顔をしたのが気になった。
数日後……
私がセリーヌお義姉様と打ち合わせをしている最中にいきなり呼ばれた。
「ジェルメーヌ! ジェルメーヌ、これを見ろ!」
「いかがなさいましたか、ベルナールお兄さ誰だお前」
誰かはすぐにわかる。
声が慣れ親しんだ、敬愛するベルナールお兄様だもの。
ベルナールお兄様は可愛いうさぎさんの仮面をつけていた。
私の仮面にインスピレーション受けたのかなぁ。
「……なんでそうなったんですか、ベルナールお兄様」
「いいや! ベルナールなどここにはいない! 俺はペドレッティ伯爵家のピンチに駆けつける謎のうさちゃん仮面だ!」
謎のうさちゃん仮面。そんな守護神じみたものが当家にいたなんて初耳ですね。ねぇ、ベルナールお兄様、初耳なんですよ。
「……セリーヌお義姉様、大変失礼なことを申し上げて恐縮ですが、あなたの旦那はアホですか」
「ジェルメーヌさん、あなたのお兄さんですよ」
なんでこんなことになってしまったんですか、私の敬愛するベルナールお兄様……
「これで俺も戦場に出れるな!」
「そんなわけないでしょう、伯爵閣下」
お父様が見たら「その手があったか!」とか言いかねないけど、この手はないからね。こんな手はない。
「伯爵? 知らんな! 俺は謎のうさ……あれ、うさちゃんだっけ? ……うん、うさちゃんでよかったよな。うさちゃん仮面だ!」
自分で設定があやふやになってるじゃないですか……
原作ゲーム、王冠の野望は戦略シミュレーションゲームだ。
一つのゲーム内に私、仮面に次いで3人目の仮面キャラとか、仮面がインフレしてない? 大丈夫?
「とにかくだ! 今後なにか困ったことがあったらこの、謎のうさ……俺に相談するといい!」
もう自分で設定がどうでもよくなってるじゃないですか……
「うーん、困ったなー。伯爵が仕事をしてくれないなー。書類がいっぱいあるぞー。いっぱいだぞー。謎のうさちゃん仮面助けてー」
「善処する!」
善処じゃなくて書類を処理しろ。
「こうやっていれば、俺はうさちゃん? 仮面であってベルナールじゃないから、戦場に出ても問題はないな!」
なんでうさちゃんが疑問形だったんだろう。疑問を呈したいのは私だ。
なにがうさぎだ。きつねさんが襲っちゃうぞ! がおー!
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん