開花
マリオンが大司教にテレワーク魔法を教わり始めた。
大司教は遠距離鏡面なんちゃらの魔法みたいな覚えられない名前をつけていたが、テレワーク魔法で十分だ。
マリオンは大司教から見ても魔法の適性が高いらしく「俺には及ばんが」なかなかということだ。
本当にマリオンを見出してくれたロタン教授には感謝でいっぱいである。
なお、マリオンは大司教の元へ行くことはなく、自宅でテレワークでテレワーク魔法を学習している。
おそらく世界初の通信教育だ。1日30分!
よく考えたら「国教の大司教の時間を1日30分拘束する」ってやばいな。
どれだけの権力者だったらそんなことができるというんだろう……
ちょっと興奮してきた。
鏡についてだが、この国ではまだガラスの鏡は発明されていない。すべて銅鏡である。
ガラスの鏡ってどうやって作るんだろう。
水銀? とかをどうにかするということは聞いたことがあるけど、水銀なんて素人には危険すぎて扱えるものじゃないし、これはどうしようもないかな。
水銀があるだけじゃ鏡はできないだろうし。なにか加工が必要というのならお手上げだ。
ふむ、では金属をいわゆる鏡面磨きして鏡にしてやれば……あぁ、それは銅鏡か。
「……仕事があるんじゃないんですか」
「あるよ! 少しは休ませろよ!」
テレワーク魔法講座が終わったら、なぜかベルナールお兄様か私のどっちかが大司教とお茶する時間があるのだ。暇なのかな、大司教?
大司教は秘書にお茶を運ばせて……いや、秘書じゃないぞ。
「人形使いの方じゃないですか」
「そうだよ」
そうだよじゃないよ。
「……お久しぶりです、ジェルメーヌ様」
頭を下げてくる。えっ……?
前に会ったときはもっと、こう……もっと、その、お下品な方だった記憶があるのだが。
いや、見た目は「Theお嬢様」という感じで、そのギャップがすごい人だったからよく覚えている。
そういえば前に大司教もなんか言ってたなぁ。
「そういえば、大司教猊下の非人道的な魔法によって、可哀想な人形使いさんは魔法が使えなくなってるんでしたっけ」
「お前、実は俺の敵だったか?」
人道的ではないのは確かじゃない、敵味方関係なく。
「私は勢力の長としての大司教猊下は結構好きですよ。敵なんてとんでもありません」
「ジェルメーヌ嬢にとって敵って誰だよ」
大司教が苦笑しながら聞いてくる。そんなもん決まってるじゃない。
「国王とティボー・ガスティンとニコラ・シクスとギー・ドゥトゥルエルです」
「お前の家族と敵対した人間じゃねーか」
当たり前です。敵です。
ティボー・ガスティンは大好きなお義姉様の兄だけど敵です。
このことは申し訳ないけどセリーヌお義姉様にもお伝えしてあります。でもセリーヌお義姉様のことは大好きです。
「それでな……悪い報告がある」
「いい報告と悪い報告があって、どっちを最初に聞くかとかそういうのはないんですか?」
私の言葉に大司教は少し考える。
「クレールの自宅の花壇で綺麗な花が咲いたそうだ」
「まぁ、素敵」
ちなみにクレールさんというのは神聖騎士団の提督という海軍のトップで、陸軍トップのエモン団長に並ぶ存在の人である。へぇー、クレールさん、お花を育ててらっしゃるのねー。
王国の女性としてはセリーヌお義姉様に次ぐ武力ナンバー2であるおばあちゃん提督だ。会ったことはない。一度会ってみたいとは思ってるけどなかなか機会がない。残念である。
「で、悪い報告の方だが、ケルシアの娘はガスティン侯爵に確保された」
「いい報告と悪い報告の釣り合いが取れてないじゃないですか」
悪い方の報告が突き抜けて悪いじゃないか。
「いや、でも……咲いたのはとても綺麗な花らしいぞ」
んん! それなら! ギリギリ釣り合いが取れるのかも!
「俺も見てないけど」
うーん、まぁ……ですよね! 本当だったら私とお茶する時間なんてないだろうし、お花を見にいく時間もないよね!
社畜ほどやれとは言わないから、ちょっとは仕事しろ!
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん