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祝福

「あれで、よかったのだね?」

お父様からガスティン侯爵家への対応については、その一言しか聞かれなかった。




おかしい。これでいいはずがない。

父、クリスティアン・ペドレッティは53歳。まだそんなに枯れる年齢ではないだろう。

学園在学中の小娘に任せてしまうというのは……ベルナールお兄様の推薦があったとはいえ、娘とはいえ、あまりにも私を信頼しすぎではなかろうか。


「あぁー、母上が亡くなってからの父上の落ち込みようは言葉にも表せなかったからね」

私の疑問はユーリお兄様が解消してくれた。

さすが、人の機微を言葉にする詩人さんだ。よく見ている。

……私達の母、リュシー・ペドレッティは3年前に亡くなっていた。

貴族だからもちろん政略結婚ではあるのだけど、生涯にわたって愛し合い続けていたらしい。素敵ね。

「もちろん俺達や、ジェルメーヌだって母上が亡くなったのは悲しかっただろう? でも父上にとっては『愛した人が亡くなったから悲しい』じゃなかったんだ。『世界が滅んで悲しい』だったんだ。父上にとって母上は世界だった」

喩えがわかるようなわからないような……

「父上は今でこそずいぶん立ち直られたが、母上が亡くなられた直後は見ていられなかった。世界が滅んでいるから足場すらなかったんだね……ふわふわと宙を舞っているようだった、悪い意味でね」

むぅー……

「ユーリお兄様、明日は時間を開けてください。ベルナールお兄様にもそう伝えてもらって……明日は家族でピクニックにいきましょう」




ベルナールお兄様は兵達の訓練を休んでもらった。

お父様には執務をシャルルに代わってもらった。

アドリアンの授業は、今日は自習だ。

ユーリお兄様は……まぁ、うん。


馬車に乗る私達と、騎馬で護衛につく数名。

「どこへいこうというのだね?」

そんな穏やかなムスカがいるか! いや、ムスカじゃない。お父様だ。

馬車の窓を開ける。

「先日、シュヴァリエが治めるセリーヌ湖畔へと赴いたとき、この地の美しさを知りました」

馬車の中に気持ちのいい風が吹き込んでくる。

「そうだね。リュシーも……お前達の母親も大好きだったよ」

お父様は目を細める。

しばらくして馬車が止まった。

セリーヌ湖畔に行く途中に綺麗だと思った郊外の丘陵地だった。




お弁当を広げる。

今日はコックに頼んで、私も弁当作りを手伝わせてもらったのだ。「こんなのはどうかしら?」と提案したらノリノリで作ってみてくれた。

「おっ、これは!」

それが今回のポテトチップスだ。

私の前世の記憶では19世紀のニューヨークのレストランで「フレンチフライを薄く切れ!」という客の要望にブチ切れたコックによって作られたものだ。なお、この世界ではそもそもまだフレンチフライ自体も作られていなかったので、うちのコックのチャレンジ精神は相当なもんだと思う。

「おー、パリパリして美味しいな」

「うむ、美味い」

2人の兄絶賛。よかった。

お父様も物珍しそうに手に取って、一口。

「あぁ、これは美味しいね」

微笑んでくれた。

「この美味しいものも、それを育てた人々も、この美しい大地も、すべてお父様の治世によるものなのですわ。お父様がこの美しい伯爵領を作り上げたのです」

「あぁ」

お父様は周囲を見渡す。

「……そうだ。この美しい土地を美しいままにしなければ、リュシーのところに行った時に怒られてしまうかもしれない」

お父様は優しい顔をした。


お父様が優しい顔をなさるのなら、それがいいのだ。




さて、帰ろうかという頃になってユーリお兄様がどっかいった。


「行方不明ー!?」

「いやぁ、兄上は詩想が湧いたと言ってはふらふらとどっかに行く人だからなぁ」

護衛の人はいなくなってること気づかなかったの!? 気付かなかったの。あ、そう……

「ユーリ!どこだー!」

お父様も声を張り上げて探している。

「はぁい?」

……すぐに出てくるのかい。

ユーリお兄様の方を見ると……


「ユーリお兄様、なんですか、それ?」

森の中から出てきたユーリお兄様は白馬にまたがっていた。

いや、白馬じゃないな。額から角が生えてるもんな。ユニコーンだよね、これ。

「いや、こいつが乗せてくれるって……はい、ここまででいいよ。ありがとう」

ユーリお兄様がユニコーンを撫でるとユニコーンは首をユーリお兄様に擦り付けた。

馴れてんじゃん……


一般的にユニコーンは処女にしか懐かないって言われてるけどユーリお兄様でいいの?

……そうか、ユーリお兄様は広義の処女か。


そういえばゲーム内イベントで3ヶ月に一度、季節の始まりの月に精霊や魔物がやってくるイベントがあったなぁ。ユニコーンはどういうイベントだったっけ……

「わっ、なんだこれ」

ユーリお兄様の声が直接脳内に聞こえた……

「えっ?」

ユーリお兄様と顔を見合わせる。

「えっ、なに?」

ユーリお兄様の声が脳内とユーリお兄様の口からと二重に聞こえる。

これ、遠話の魔法なのでは……




思い出した。ユニコーンは能力値をランダムで1だけ上げるイベントだ。

魔法は魔力が30以上の武将じゃないと使えないけど、ユーリお兄様は今まで29だったから……


この国では魔力がいくら低くても、魔法使いは魔法使いであるというだけで貴重だ。

ユーリお兄様は一気に伯爵家の要人になった。

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科

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― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧に作られた小説で好感が持てます。 内容も奇抜な事もなくじっくり読ませていただいてます。(^^)
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