竜国
邪悪なドラゴンのことは知っていた。
原作ゲーム、王冠の野望でも散々語られたことだったし、テーマの一つだったからだ。
でもそのドラゴンの国のことは知らなかったし、どこにも書いてなかったように思う。
ドラゴンが単体で国を支配していたようなイメージだった。
しかしよく考えたらそんなわけもないだろう。
邪悪なドラゴンがいかに力を持っていたとしても、この国の国土は広い。東京ドーム何個分とかそういう広さじゃない。いっぱいだ、いっぱい。つまりその土地に暮らす人々もいっぱいだ。
ドラゴンが王冠の中で400年間生きていることを考えると、きっとその寿命は人間には計り知れない生物なのだろう。だから強さも人間とは桁外れだ。それはわかる。
しかしいくら強かったとしても数に勝る暴力はない。戦いは数なのだ。
民衆のすべてが立ち上がっていれば、とまではいわないが、各地にはもっと腕自慢達がいたことだろう。もちろん魔力を持った人達も。
そういった人々が一斉に蜂起していればいかに強大なドラゴンといっても瞬殺だったはずだ。
ピクミンは1匹1匹は弱くても数の暴力で強大な敵に勝っちゃうのだ。
赤ピクミンは火に強いのだ。
しかし敵が組織の場合はそうはいかない。
「邪悪な」ドラゴンだから民衆に支持されていたとは考えづらいが……とはいえ、勝者である英雄王に歴史が歪められた可能性はあるが……ドラゴン狂信者の人間がドラゴンに敵するもの達を取り締まっていたのかもしれない。
その末裔が……サンルナ団、か。
「ドラゴンに与する人間がいたなんて……うーん、考えたこともありませんでしたけど、言われてみれば至極当然のことですね」
「うむ」
サリウ氏は重々しく頷いてから、フォキを見た。
フォキもサリウ氏に頷き返し、言葉を繋ぐ。
「俺ら、ブリカン一派は今までサンルナの野郎どもと争って参りましたが、その中でやつらが『自分達はこの国の支配者の末裔だ』とか、そんな主張を聞いたことはございません。しかし、同じ人間でありながらやつらは領民への苦しめ方が……なんと申しますか、情が感じられねぇのでございます」
「情?」
私の不思議そうな声に今度はサリウ氏が口を開く。
「以前、サンルナ団のアジトを攻めたことがあった。そのメンバーのほとんどには逃げられてしまったが、攻め落としたアジトの一角には人間の死体が積み重ねられていたよ。どうやら死体で弓の練習をしていたらしい」
それはドラゴンの国の末裔ではなくてただの鎌倉武者なのでは?
「アジトの前を通りがかった人間を練習の一言で射殺すような暴虐も働いていたようでございます」
繰り返すけどそれはドラゴンの国の末裔ではなくてただの鎌倉武者なのでは?
鎌倉武者には情がない……というより情のありかが現代人にはわかりづらい。
「……まぁ、わかりました。サンルナの名前を冠していなくても、かつてこの国の支配階層であったというのならペドレッティ伯爵家領にも手先がいるかもしれないということも理解しました」
「うん、話が早くて助かる」
サリウ氏は満足そうに頷く。
「ジェルメーヌ嬢のいうように、サンルナの一派はシクス侯爵家領だけにいるわけじゃないと思う。俺の命を狙ったギョームも『知り合いのところに行く』と言っていたからね。知り合いがサンルナの人間かどうかはまだわからんが、注意しておくべきだと思う」
確かに。
「そこで、このフォキだ。俺はそろそろファンニ先生の許可が出次第シクス侯爵家領に帰るつもりだ。そのあと向こうでもサンルナについて調べてみるつもりだが……ペドレッティ伯爵家領のサンルナの存在の洗い出しについてはこいつを使ってほしい。長らくサンルナと敵対してきているからね。やつらのやり口にも通じている」
あー、そりゃありがたい。
「なるほど。ではフォキさん、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
フォキの声は陰鬱なままだった。
「で、伺いたいのですけどサンルナ竜国についての口伝は当家には伝わっていません。シクス、ディガール、ガスティンの侯爵家には伝わっているとして……王家にも伝わっていると考えるべきでしょうか」
「そうだね。王家にはもっと詳細に伝わっていると思うよ」
あぁ、だったら……
「であれば……仮面にはより一層の注意が必要ですね」
私のぼやきにサリウ氏は顔を引き攣らせた。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん