一派
サリウ氏に促されるままに椅子に腰かけると、フォキと名乗った凶相の男との距離が縮まった。
うーん、見れば見るほど悪いことをしてそうなお顔……
「この男はね、ブリカン一派という組織にいるのだけど……その前にブリカン一派について話をしておこうか」
サリウ氏が口を開いた。
シクス侯爵家領には賭け事の胴元が二つ存在するのだそうだ。
そのうちの一つがブリカン一派である。
胴元とは縄張り内の賭場を開く許可を与え、手数料を取り立てる存在であり、荒くれた人間が多く集まる荒くれた賭場という場所を荒くれながら管理している荒くれた人間だけあって、その荒くれた部下にも多くの荒くれたものが荒くれながら集まるという、とても荒くれた存在である。荒くれ荒くれ。
ブリカン一派はもともとサリウ氏と近しく、いわば協力関係にあったということだ。
領地でなにか犯罪が起きた場合はブリカン一派はできる限りの協力をする。そのかわりにサリウ氏はブリカン一派に一定の便宜を図る、と。
領内が善人だけで構成されているのなら、こういった組織との関わりは必要ないのかもしれないが、善人だけの領地なんて……うーん、一瞬ソウ辺境自治区のことを思い出したけど、あそこはあそこできっといざこざはあるだろうからなぁ。「あの子が僕の餌を取ったー!」とか、そういう。
ブリカン一派はサリウ氏……ひいてはシクス侯爵家との繋がりにより勢力としては一番大きいが、それに反発する勢力もある。
サリウ氏が討伐したのは、そのブリカン一派と敵対する組織の一つだった。
ブリカン一派と一番の大きな敵対勢力というのは別に存在する。討伐したのはそのうちの一つで、そこまで大きな組織ではなかったそうだ。
こいつらは盗賊として近隣の村を荒らしまわっており、領民からの要請によるものだったそうだ。まぁ、妥当な仕置きといえるだろう。
サリウ氏は盗賊の組織を討伐し、主だった幹部を斬首した。領民からも感謝され、めでたしめでたし。
ブリカン一派としても犯罪を全否定するわけではないが、領民が困っているときに賭け事もなんもないので、盗賊団が壊滅して、めでたしめでたし。
……この幹部の中にブリカン一派と敵対する一番大きな組織、サンルナ団の頭領の息子がいたらしいのだ。
サンルナ団。うーん、微妙なネーミングセンス!
サンは「聖なる」じゃなくて「血」のサンかな。「ルナ」が「月」で、血の月団?
「サンルナの連中は、シクス侯爵があの地を治めるようになるよりも前から、あの地に根付いていたやつらです」
フォキが暗い声でぼそぼそという。
「ということは、400年以上の歴史があるわけですか! ……犯罪組織とはいえ、すごいものですね」
それだけ歴史があるのなら土地の人々とも独自の繋がりを持っていることだろう。
「当初はただの犯罪組織ではなかったとのことを聞いておりやす」
当初はまともな組織だった?
「初代英雄王がこの王国を建国する前は邪悪なドラゴンと、それを支持するものたちの国があった……その国名は一般には伝わっていないし、ジェルメーヌ嬢もさすがにそこまでは知らないだろう?」
サリウ氏に言われて気づく。
確かに邪悪なドラゴンのことは知っていたが、その国のことは知らなかった。
設定資料集にも載っていなかった部分だと思う。
しかしこの土地を邪悪なドラゴンが支配していたのなら、土地を治める組織は必要だろう。それを国といってしまえば確かに国か。
「確かに国というのは知らなかったですね」
「文書で国名が残っているわけではないからね。ただ、シクス侯爵家は英雄王に従って邪悪なドラゴンを討伐した家の末裔だから口伝が残っているんだ……その国の名前はサンルナ竜国という」
……あぁー、そこに繋がるわけかぁー。
まともな組織ってわけでもなさそうだった。
うーん、微妙なネーミングセンス!
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん