胴元
「ほぇー……」
家に帰ってきた。
旅から帰ってくると「やっぱり家が一番だなー」とか思うあれはなんなんだろうね。
とはいっても家には美の女神はいないので、また機会があったら会いにいきたいなぁ。
お父様、ベルナールお兄様とセリーヌお義姉様とアメリーお義姉様、ジル少年に帰宅の挨拶をして、お土産を渡した。
お2人のお義姉様には美の女神からちょっとよさそうな香水を教えてもらっていたのでお渡しする。
またお2人ともさらに美しくなっちゃうわー。
義妹として鼻が高い。きつねさんだけにってやかましいわ。
ジル少年はなにが喜ばれるかわかんなかったけど、前にお菓子を見て目を輝かせてくれてたから、日持ちするお菓子を買ってきてあげた。
「あぁー……」
メイドもみんな下がらせて、他人には見せられないようなだらしない格好で椅子に腰掛けてぼーっと、なにも考えずに天井を見ているとドアがノックされた。
「はぁい」
急いで身嗜みを整えて、返事をする。
入ってきたのはエルザだった。
「疲れてるのにごめんなさいね」
「疲れているのはエルザさんもでしょう。それにエルザさんならいつでも大歓迎だわ。どうしたんですか?」
エルザはなにかふに落ちないといったような表情だった。
「いえ、今ね、お父様のところにお客様がいるのよ。あっ、別にこのお屋敷に滞在してるわけじゃなくて近所に宿をとってるらしいんだけどね。で、お父様がその人をジェルメーヌに紹介したいっていうのよ」
ふぅん?
シクス侯爵家の重鎮、サリウ氏が紹介したい人物となると、それなりに重要な人物なんだろうけど……
「承ったわ。でもなぜエルザさんはなにか納得できなさそうな表情なの?」
エルザは「うーん」とうなる。
「あの人の目は犯罪者の目だったわ。きっと悪いことをいっぱいしている人よ。お父様にもそれがわからないはずはないのに……政治をする上で清濁合わせ飲まなきゃいけないのはわかるけど、それをジェルメーヌに紹介する意味がわからないの」
犯罪者……?
暗殺関連のことかな?
じゃあ会っておいたほうがいいだろう。
「詳しくは言えないけど、もしかしたらという心当たりはあるわ。もしそうだとすればサリウ様は『犯罪者からの人望も篤い素敵な方』だということよ。エルザさんが心配することにはならないと思うわ」
エルザは私の言葉にほっとしたような顔を浮かべる。
やっぱり内心お父さんのことを心配していたようだ。
口調はガサツだけどすごくいい子。
「じゃあいきましょうか」
「じゃあ私は別室にいるわね」
私を部屋まで案内してくれたエルザが下がった。
サリウ氏はずいぶん顔色もよくなってきていた。このぶんだともうじき帰宅許可も出ることだろう。そうなると……エルザともお別れかぁ。寂しい。
サリウ氏は椅子に腰掛けていた。
そしてその対面に座っていた男……
うーん、確かにエルザの言うとおり暗い顔の男だ。
凶相とでもいうのだろうか、今までの人生を悪いことに費やしてきたような顔だ。顔で判断されるのはいいことじゃないけど、私もよくきつねと胸で判断されるんですよ。やめてください。
「うちの娘もそうだったが、ジェルメーヌ嬢も困惑しているじゃないか。やはりお前は顔がいかんよ、顔が」
「ご冗談を。生まれつきのもんですからどうしようもありません」
サリウ氏の言葉に男が苦笑を浮かべた。
「ジェルメーヌ嬢、こいつはこのような顔の男で……まぁ、実際に後ろ暗いこともしているのだけど、何日か前に私の見舞いにきてくれてね。毒の件に多少なりとも関わる男だから、ペドレッティ伯爵閣下とも話をしてジェルメーヌ嬢にも紹介しておいたほうがいいということになったんだ」
あぁ、お父様の判断か。
私が目を向けると男は居住まいを正した。
「お初にお目にかかります。私はシクス侯爵様のお足元で胴元をしているブリカン一派の下っ端でフォキと申すちんけな野郎でございます」
胴元……毒を盛ってた人と敵対してたっていうやつかな。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん