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「ほう、これは……なるほど、わかりやすいですね」

クープ家当主ナシム・クープさんは顎を撫でながら呟いた。


私はしばらくの間、ペラン子爵家領に滞在することになっており、ダメ元で忙しいであろうナシムさんに面会を求めたら許可が出たのだ。

せっかくだから簿記を教えてみたところである。


この国では簿記は存在する。

しかしそれはあくまで単式簿記であり、私が前世の知識で知っている複式簿記は存在しない。

だから……

「ふむ」

感心したようにナシムさんは鼻を鳴らした。

「正直に言いましょう。このスタイルの記帳は見たことがないものです。しかし、とても有用ですね。あとで見返して、とてもわかりやすい。とてもよいものです」

薄く微笑みながら私の方を見る。

「この形式の簿記は学園で教えていただけるのですか?」

「えぇ、簿記は技術ですから、マスターしたものであれば誰でも教えられます。私もお手伝いさせていただくつもりですわ」

ナシムさんは「なるほど」と呟いて、記帳された紙を眺めてから「ほら、見てみなさい」と言って後ろに控えていた人に紙を渡した。

私は名前を知らないけど、恐らくクープ商会の幹部なんだろう。

「次期の新入生の枠はまだありますでしょうか。うちの番頭さんに年頃の娘さんがおりましてね」

「えぇ、もちろん。ご入学いただけますわ」

VIP待遇で!

金蔓だもの!

まぁ、それだけじゃなくて学園が有用だと知ってもらえれば今後の投資も期待できるかもだし?

番頭さんだけじゃなくても誰でもオッケーよ!

でもそれ以上に……

「ただ、私は別の方のご入学をお誘いさせていただきたいのです」

「ほう?」

ナシムさんが微笑みながら目を見張る。

「ナシム様にはご子息もおられるとか……」

「えぇ、12歳と7歳の2人がおりますが……さすがに早くありませんか?」

この国では学園は15歳から3年間というのが一般的だ。

もちろんこれはあくまで「一般的」というだけであっていくらでも例外はある。

文字を学ぶためだけに30を越えて入学した農夫が同級生にいた。

そして私自身が15歳と16歳の2年間は王都の学園で通い、1年置いて18歳で伯爵領の学園に通った。

私自身が例外なのだ。そして……

「ナシム様は私がウヴェナー伯爵家のジル・ウヴェナー様を保護したことはお聞き及びでしょうか」

「えぇ、伺いました。大変ご苦労をなさったようですね。しかし今をときめくペドレッティ伯爵家の庇護に入ったとなれば、もはや安泰というものでしょう」

ときめいてるかなぁ? 安泰というほどでもないと思うなぁ。

「実はジル様は、ナシム様のご子息と同い年の12歳なのですが、来期からの入学を希望しておられるのです。しかし今、入学なさった場合、周りは皆、年上ばかりの環境。舞踏会の日よりずっと苦労なさっておられるジル様に同い年の学友がいれば、と思いまして……そこでナシム様のご子息がちょうど同い年であると伺った次第でございます」

ナシムさんは私の顔をしばらく眺めた。

「ジル・ウヴェナー様の後見はジェルメーヌ様と思ってよろしいのでしょうか」

私かなぁ? うーん、私になるのかなぁ?

「そう、ですね……父か私か……私、になるのでしょうか」

私の答えにナシムさんはにっこりと笑った。

「かしこまりました。私の息子をぜひ学園に預けさせていただきたい。ただ、そうなるとジェルメーヌ様も一度学園で襲われておられることでございますし、警備体制をこちらでチェックさせていただきますが、よろしいですか」

クープ家の私兵が入ってくるのかな。

クープ家という家は軍というほどの規模ではないが、私兵団もある。


「適度にしてくださいね」

「ジェルメーヌ様のご不興を買うような真似は致しませんとも」

私の言葉にナシムさんは満面の笑みを浮かべた。

不興を買うギリギリまで私兵送られちゃうのかなぁ。


ただ、学園に機密はないので純粋に警備面で助かるのだ。

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん

ナシム・クープ:アレッサンドロ・デル・ピエロ

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、きつねさんの知識チート来た 前世は事務職なのかな
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