斬首
今日も私がいつも仲良くしていただいている……と、私が勝手に片思いしている方の、とてもおもしろい小説の主人公さんにゲスト出演していただきました。
快くゲスト出演許可をくださったAstahju様、ありがとうございます。
Astahju様の作品はこちら!
職業はマジシャンです
https://ncode.syosetu.com/n5324gg/
なお、手品の演出については、現役マジシャンでもあるAstahju様に監修していただき、実際にある物をモチーフにしていますが、実現できない表現もございます。ご了承ください。
私は箱の中からきょろきょろと見回す。
わぁー、壇上はちょっと高いから周りがよく見えるぞぉー。
羨ましいでしょう?
羨ましいと思った人はすぐに立場を変わってあげるからこっちにきなさい。
「ではもう一方、どなたか剣術が得意な方はおられませんか?」
剣!? 剣っつったか!?
剣でなにをするつもりだ!?
……いや、言わなくていいです。
なんとなくわかってきてるし、発言した瞬間に確定してしまう。ここはシュレディンガーの舞台なのだ。
しかしこんなおめでたい場で剣が得意な人なんて……
いるよな! いくらでもいるよな! 戦時だもんな! ベルナールお兄様クラスじゃないにせよ「得意」ってだけだったらいくらでもいるよね!
ぱらぱらと手が上がっているのをエアル氏が見回す。
「はい」
「ではそちらのお嬢様、壇上へお願いします」
エアル氏によって誰かが指名されたらしい。誰かと思って見てみたらロランスだった。
ロランス、もしかして私のこと嫌い?
いや、ロランスはなにをするのかよくわかっていないようだ。よくわからないながらも壇上に上がってきた。
「ではお嬢様、こことここに剣を通していただけますか?」
やっぱりぃ!? やっぱりそういう展開だったぁ!
ごめんよ、シュレディンガー……観測する前から未来は決まっていたよ。
「えっと、大丈夫なんですよね? ……魔法で剣が無効になるとかなんですよね?」
ロランスが焦ったようにエアル氏に確認しているが、エアル氏は微笑みを浮かべたままだ。
「間違えるととても痛いので気をつけてくださいね」
おどけたエアル氏の言葉に観客席から笑いが起きる。特に聖女。絶対許さないぞ、聖女。
「ジェルメーヌ様……えっと、大丈夫ですか? いきますよ?」
大丈夫じゃないです。一生大丈夫じゃないです。
……すん。
ロランスの雰囲気が変わる。
あ、これ、ベルナールお兄様やセリーヌお義姉様が本気になったときと同じ空気だ。
「いきます」
はい、逝きます。
ロランスはきっちり2回、剣を振り抜いた。
どこからか「きゃーっ!」という悲鳴が聞こえた。どこからかっつーか美の女神が顔を青ざめさせていた。
いや、絶対斬ったもん、今。
ロランスも茫然とこっちを見ていた。
「では箱を動かしてみましょう」
エアル氏が私の頭の入った箱を持ち上げて床に置く。おっ、目の前に自分の足が見えるぅー!
ロランスはまだ茫然としていた。
「ごめんなさいね、ロランスさん。私のせいであなたを人殺しにしてしまったわ」
私の言葉にロランスは涙ぐんでしまった。悪いことをしたなぁ。
「このようなことをしても大丈夫です」
エアル氏は私の頭と足を残して胴体の箱をぶんぶん振っている。やめろ! 出ちゃうよ! 胴体から出ちゃうよ! やめろ!
「では箱を戻しまして……」
足の上に胴を、その上に頭を乗せられる。目線がさっきの高さに戻ったわ……
エアル氏は指パッチンをして箱の蓋を開けた。
「これで元どおりになりました」
箱から出る。自分の体をペタペタ触ってみる……斬られたあとがあるかどうかは脱いでみないとわからないのですぐに確認はできないけど、痛みはないようだ。
「ジェルメーヌ様、よかった!」
ロランスが抱きついてきた。斬ったのは君だけどな。まぁ、謝れるいい子なので頭を撫でておく。
「このようにご結婚なさったお2人も、絶対にその絆が切れることはないでしょう。それを証明してくださったお2人のお嬢様方に大きな拍手をお願いします」
エアル氏の言葉に会場に響き渡る大きな拍手が轟いた。
え、えぇー?
「それではもう一ネタさせていただきます」
そんなエアル氏の言葉を背に壇上から降りて元の席に向かう。ロランスが心配そうな顔をしてるけど、君だからな? いや、悪気はないのはわかってるけど。
「おかえりー」
エルザが他人事のように笑いながら出迎えてくれた。
「ジェっちゃん、完全に切れてたじゃーん」
さっき爆笑してたな、この聖女め。
会場が再びどよめく。
エアル氏が手に持っていた紙の花を上に放り投げると一瞬大きな炎が上がり、エアル氏がそこに手を伸ばすと炎の中から大きな花束が現れたらしい。
エアル氏は花束を美の女神に渡して、そこから一礼して退場した。
会場は大盛り上がりである。
「ほえー、すごかったですねぇ」
いつの間にか戻ってきていたマリオンがエアル氏を見ながら呟いた。営業活動ご苦労様ー。
「どうしたの?」
「いえ、魔法を使うときって、どうしても魔力の流れがあるものなんですけど……先ほどの方はどうしても流れが見えなかったです。恐らく流れも見せないほど完全に制御されているんですね。一流の魔法使いですよ!」
私は一流に胴体を弄ばれてしまったようだ。
胴体を弄ばれるって、下手な肉体関係よりも濃い関係だと思うんだけどどう思う?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん