顕現
しかし……
そっと周囲を見渡す。
今は港での交易でかなり潤ってはいるものの、わずか2年前までは辺境の地の田舎者に過ぎなかったペラン子爵家なので、この式自体も随所にチープさが見える。まぁ、うちの家も事情は変わらないけど。
教会は広さこそあるものの、築年数はかなりのもののようで、正直に言ってあまりきれいではない。これは掃除をしていないとかじゃなくて経年によるものだ。
飾り付けもなんか、なんというかちぐはぐで……
教会自体は古い様式で、建築された当時は恐らくペラン子爵家はあまり裕福ではなかったのだろう……正直に言って建材に高級感がない。
そこに、新しい、明らかに高級そうな祭壇や、レリーフなどが置かれているため建物の古臭さに対して完全に浮いてしまっているのだ。
しかし、それも娘の結婚を微力ながら盛り立てようとするペラン子爵の優しさだろう。美少女もいいお父さんを持っていてよかったねぇ。
それに……
そっと周囲を見渡す。
招待客はそうそうたるものだ。
美少女の学友……やはりペラン子爵領までは距離があるため全員が参加できたわけではないが同学年に限らず、後輩も多数参列している。参列できなかった子達から「これをナタリー様にお祝いとしてお渡しください」と預かったが、ナタリーって誰のことなのかわからずに首を捻ったものだ。よくわからないけど美少女に預けておけばいいだろう……まぁ、美少女がいかに学園で慕われていたかを示すいい話である。
その美少女の学友として、エルザや私、マリオンやロランスをはじめとして、かなりの人数が確認できる。
数日前に卒業したばかりなのに感慨もないったらありゃしない。嬉しいけど。
しかしそれ以上に目を引くのは招待客の面々。
パスカル・シクスやジャンさんはさすがに忙しいということで出席していないが、エルザが「叔父様!」と呼んでいた人が参加していた。名前は知らないけど私も顔だけは見たことがある人だ。
パスカル・シクスが名代を送ってくるくらい、今のペラン子爵家には存在感がある。
それから貴族ではないが、クープ家の当主とその奥さんが参加していたのは驚いた。
クープ家はシクス侯爵家領に地盤を持つ王国屈指の大商人である。
ペラン子爵家領の港を整備しているのもクープ家なので、そこの人間が参列すること自体は不思議はないが、まさか当主夫妻の出席とは驚いた。
クープ家自体がペラン子爵家との関わりを重視しているという明確なメッセージだろう。
そしてサヴィダン公爵家からも公爵の名代が送られてきていた。これもなかなかの大物だ。
アルテレサ伯爵家からはロニー君、ペドレッティ伯爵家からは私……私が名代になってしまった。いいのかなぁ、私で。
フローラン君が入場してきた。
少し離れた場所からだが、相変わらずの美少年っぷりは差し引いてもがっちがちに緊張しているのがわかる。
口を開いたら「あわわわわ」と言いそうだ。うん、ペラン子爵家の家族になるにふさわしいということか。
そのままフローラン君は聖女の前に進み出て、なにか言葉をかけられていた。私の位置からは聞こえないけど、さらにフローラン君が緊張するのがわかる。
聖女が苦笑していた。
次に美少女の入場の順番だ。
ドアが開き……
「おぉ……」
誰かが漏らした声が聞こえたが、私も声を出しそうだった。
美少女は本当に美しくて……
「大変です」
隣のエルザに小声で声をかける。
「どうしたの?」
「私の友達は、今まで人間だと思い込んでいましたが、美の女神でした」
エルザは私の言葉にバージンロードを歩く美少女をしばらく見つめた。
「……ほんとだ」
全員で起立して、賛美歌を歌う。
出席者が私の方をちらちらと見ている視線を感じた。
コンダクターって二つ名と実際歌うのは関係ないでしょ。こっち見るなよぉ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん