芸風
その日、ペラン子爵領のすべてが荘厳な雰囲気に包まれていた。
先触れは神聖騎士団団長エモン卿。
神聖騎士団の騎士達が街道の護衛にあたる。
そして、やってきた。
聖女が、ペラン子爵領に、美少女の結婚を祝うためにやってきた。
「やっほー、ジェっちゃん! 久しぶりじゃーん!」
「お久しぶりです、聖女猊下。その口調、みんながバグるので控えませんか?」
もうすでに遅いような気もするけど、聖女は「なにを言ってるんだろう」という顔をして首を傾げた。本人は本当にわかってないんだな……
それはそれとして、やっぱり聖女の力はすごい。領地全体が「聖女がいる」ってだけですごい雰囲気になってるもの。
聖女ブランドの力だろう。
「今からでも来期、学園に入学しませんか?」
「キョーミはあるけどさー、あーしもセージョだから、一勢力にばっか肩入れできんのよー。ジェっちゃんのことは気に入ってっけど、だからこそニューガクできそうにないわー。ごめんねー?」
世知辛いなぁ。仕方ないけど。
「えっ、聖女様が、あわわわわわ」
「旦那様、落ち着いあわわわわわ」
キャロルさん、そして初対面だがキャロルさんの奥さんが突然の聖女来訪にテンパっていた。あわあわするのはペラン子爵家の芸風か?
美少女がこの場にいたら、きっとやっぱり「あわわわわわ」って言ってるだろうから、きっとそうなんだろうなぁ。
「あわあわせずんばペラン子爵家の人間にあらず」とか、家訓があるのかもしれない。
まぁ、3人とも聖女来訪にテンパってるだけで、口調には特に言及してないから、口調が気になる私の方がおかしいのかなぁ?
「お前達は落ち着きなさい。はぁー、聖女様がお泊まりになった際に使われたシーツは家宝にしよう」
ペラン子爵はいつもどおり落ち着いてたから家訓じゃないのかもしれない。もしくはペラン子爵はペラン子爵家の人間ではないか、どっちかだ。
それはそれとして、変態だよ、それは。なんやねん、シーツって。
どうするんだよ、シーツを!
……いや、ほんとにどうするんだ。
「ジェっちゃんの友達、愉快な人だねー!」
聖女がにこにこする。
違うんです。彼らは友達の家族であって、友達ではないんです。違うんです。
そういえば不意に思い出したが宗教の偉い人が結婚式を祝うアニメがあった。
ヤギの子供に祝福を授けるいい人だった。そういえばかの伯爵家の地下では……それを日本人の警部が……ふむ、なるほど。
今日、ここで結婚式が行われるということは、まさか……
念のためにペラン子爵の側によって小声で確認する。
「子爵閣下って、偽札を作ってらっしゃいますか?」
「なんですって?」
聞き返された。
まぁ、機密に属することだから言えないのだろう。「わかってますよ。私は味方ですよ」という顔をしておく。
「えっ?」
不思議そうな顔をされたけど、大丈夫ですよ。みんなには内緒にしておきますから。
「じゃー、新郎新婦とサイシュー打ち合わせしてくっから、またあとでねー! ウェーイ!」
聖女はいったん別室に行ってしまった。
結婚ってウェーイっていう感じなんだっけ? いいのか? 慶事だからいいのか?
「……話には聞いてたけど、あんたもすごい人と知り合ってるのねー」
「ほんとですよー。あ、お酒の納入終わりました!」
エルザとマリオンが近づいてきた。マリオンはお仕事してたとして、エルザは……聖女から逃げてたな?
「うち、爵位持ちじゃないから、さすがに未分不相応でしょ」
聖女は気にしないぞ、絶対に。
しばらく話をしていると入り口のドアが開き、聖女が入室してきた。
さすがに慣れているのか、薄い微笑みを浮かべ、前を見て、この結婚式のために作られた祭壇の前に立つ。
人々が聖女に注目する中、軽く祭壇に向けて祈りを捧げると、祭壇に灯りはないにも関わらずぽぅっと淡く光りはじめた。
これが聖女の奇跡!?
こんなにおやつ感覚で奇跡使っちゃうの?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん