式典
「あなたとの婚約を破棄させてもらう!」
「えっ、私、ジェルメーヌ様と婚約してましたっけ? やった!」
ありそうなセリフを呟いたらマリオンに反応された。
やったじゃないよ……破棄するって言ってるのになんで喜んでるのよ……
マリオン、もしかして私のこと嫌い?
「伯爵様のご令嬢と婚約したことがあるなんて、うちの村の大人達に伝えたら三日三晩お祭りですよ。きっとタダ酒もいっぱい飲めます。もうちょっとで伯爵様の身内になれたのになー! って残念パーティーしてもらえますよ。ジェルメーヌ様も誘いますね!」
なんで婚約破棄した当人がお祭りに誘われるというの……
でも伯爵家との婚約というだけで喜ばれるという事実だけはありがたいことだ。
お父様の治世が誤っていないことが、歪んだ形で証明されてしまったなぁ。
卒業の式典も無事終わり、記念のパーティーの真っ最中だ。
残念ながら婚約破棄しようとする人はいないらしい。いや、よかったんだけど。
まぁ、卒業生の中で一番爵位が高い家が……エルザの家の実質侯爵。それからうちの伯爵家。あとは美少女の子爵家。
別に王族がいるわけじゃない。
ルイーズ殿下ちゃんは本来私と同学年だったけど、ずっと塔に閉じ込められていたという経緯もあるから、来期の新入生として誘ってもよかった。だけどそうしたら卒業するまでジャンさんと離れ離れになっちゃうわけで、さすがにかわいそうなので断念した。
ただでさえ青春時代の大事な2年間を塔に幽閉されるなんて人物だ。自分のやりたいことをやってほしいと思う。
あと王族……仮面呼ぶぅ?
あれに断罪なんかされたら洒落にならない。
いや、断罪対象が国王とかになるのかもしれない。それを学生に向かって主張されてもなぁ、という話ではあるけど、なんかよくわからない秘法で卒業生を操られても困る。
そもそも仮面が王族っていうのはオフレコだし。
パーティー会場を歩いて回ると、すれ違った人からは挨拶されるけど、特に話が盛り上がるわけでもない。
エルザや美少女が他の学生から囲まれてるのとはえらい違いである。
ちなみにサリウ氏はなんとか卒業式には出席して、娘以上に号泣していたが、パーティーにはドクターストップがかかったため、すでに帰宅している。
「まったく! みんなこの学園が誰の発案で作られたのか、もっと考えるべきです!」
マリオンがぷりぷりと怒るが……
「まぁ、これは仕方ないわ」
苦笑する。
私、そもそもことあるごとに休んでたものなぁ。
学園の外ではぼちぼち働いていた自覚はあるけど、学園内に影響を及ぼすようなことをしたわけじゃない。
クラスの委員もエルザに完全に任せちゃってたし、それを補佐してたのは美少女だ。
だから学生のみんなにとっては「伯爵家のよくわからん、よく休む女」という認識でおかしくない。
私の活動内容を大まかにでも知っているのは学生ではエルザや美少女やロランス、あとマリオンくらいなものだろう。
「ジェルメーヌ様!」
後ろから幼い声が聞こえた。
振り返るとジル少年とジョゼフである。
「あら、あなた達もきたんですのね」
微笑みかける……といってもきつねさんなので伝わらないけど……私に友人達が周りに集まってくる。
「えっ、どなた?」
「あー、ジル君じゃない」
エルザにはサリウ氏の看病のときにジル少年のことは紹介していたが、美少女は知らなかったようだ。
「私の婚約者の弟さんです」
婚約者候補とかわざわざ言うの面倒ですから。
「はじめまして。ジル・ウヴェナーと言います」
ジル少年はぺこりと頭を下げる。
「ウヴェナーって……そういえば最近ペドレッティ伯爵閣下がジェルメーヌ様の婚約者のお家のことを喧伝なさってたわね……そう、ご苦労なさいましたね、ジル様」
美少女に声をかけられると、ジル少年は「はい」とだけいった。
美少女が美少女すぎて照れているのだろうか。
ダメだぞー。
美少女は数日後には人妻だからなー。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん