後継
「私は恥ずかしながら、ここ2年はほとんど寝たきりでございました。起き上がることができるようになったのもつい最近でございます。それ故に戦況をまったく知らず、ペドレッティ伯爵閣下の王家に対する徹底抗戦の意思表示を存じ上げませんでした」
確かにお父様がいてくれてるからベルナールお兄様も私も好き勝手できるし、ユーリお兄様も生涯詩人でいられたんだよなぁ。
原作ゲーム、王冠の野望ではお父様の能力値は「凡将よりもちょっと上」程度だけど、それでも、ペドレッティはお父様によって守られている。
「私のお父様は心から自慢できる人なのです。胸を張って自慢できます」
「胸を!?」
ジョゼフが目を見張って、ジル少年は真っ赤になって俯いた。
どこ見て言った? ぶち転がすぞ。
いや、ジル少年の恥ずかしがる顔は可愛くて眼福なのでちょっと許した。
「軍神ベルナール様、花咲かす貴婦人アメリー様、戦乙女セリーヌ様らの名前はもちろんでございますが……」
「ちょっと待ってください」
いったんジョゼフの言葉を止める。
「アメリーお義姉様、花咲かす貴婦人ってなにやったんですか?」
「えぇ……?」
本人もはじめて聞いたって顔してるんですが……
「これは失礼いたしました! ご本人とはつゆ知らず……」
「いえ、それはいいのですけど……花咲かすって、なんですか?」
首を傾げながらアメリーお義姉様がジョゼフに尋ねる。
「伝え聞いた話でございますが、大詩人ユーリ様が花について書いた詩を清書したところ、その瞬間に花瓶の中の枯れていた花が満開になったと」
えっ、そんなことやったの、この人!?
「ぐ、偶然です! タイミングがよかっただけです! 枯れた花じゃなくてもうすぐ咲きそうな花でしたし、そもそも私は書を書いただけで、その詩を書いたユーリ様が讃えられるべきです!」
……まぁ、よく考えたら枯れた花を花瓶にいけとかないよね。
二つ名って本人の意思とは関係ないところで発生するからなぁ……経験談だわ。
アメリーお義姉様が恥ずかしがっているのを横にジョゼフは「おぉ、すげぇ。有名人に会った」みたいな顔をしてた。
まぁ、ベルナールお兄様やセリーヌお義姉様もそうだけど、アメリーお義姉様も歴史に名前が残る人物であることは間違いない。
アメリーお義姉様がいなかったら学園できてないし、辺境仲良しクラブの港も整備できていない。
「しかしそれ以上に、ペドレッティ合唱団のコンダクタージェルメーヌ様のお名前で、私たちは勇気付けられたのでございます」
私ぃ?
「軍神はコンダクターによって制御されている…… これは私自身の感想ではなく、世間の評判でございます」
いやぁー? そんなことないよぉ?
私はひたすらにベルナールお兄様やセリーヌお義姉様に守られてるし。つい最近も暗殺者から守ってもらったばっかりだし。
「僕は、嬉しかったのです!」
いきなり美少年語が聞こえた。
ジル少年、なにが嬉しかったんですか。
「そんな方のことを将来、義姉と呼んでいたかもしれない未来が、です!」
まだ、婚約もできてなかったんだけどなぁ……
でも、そんなに喜んでもらえると、私も嬉しいよね。
「ご存知のようにウヴェナーの家は滅亡してしまいましたが……」
「滅亡していないですよ」
ジル少年の言葉を遮った。
「ウヴェナー伯爵家は滅亡していないです。あなたがいる。戦乱からあなたを守りきった忠義の騎士がいる……そして私もいます」
ジル少年ははっと、顔をあげて私の方を見た。可愛い。
まぁ、今はとりあえずうちで庇護して……後のことは後で考えましょう。
「前から考えていたことで、まだお父様にもお伝えしていないことなのですが、私はこの戦乱が終結し、私の功績が認められることがあったら、ご褒美にウヴェナー伯爵家の再興を願い出るつもりでした。そのためにこれからウヴェナー伯爵家の生き残りを探そうと思っていたのですけど……手間が省けました。もう逃がしませんからね」
ふざけた口調で伝えたら、ジル少年はまた真っ赤になった。
赤面症?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん