正体
部屋の中にいたのは2人の人物だった。
私は目を背ける。
美少年めっちゃ好み。
美少女の婚約者の美少年は……いや、美少年美少年でわかりづらいからあだ名で呼ぶことにするが、フローラン君も相当の美少年だったけど、あっちは私よりも年上だし、そもそも美少女の大事な人だ。
私は友情と恋愛で、友情を選べる素敵な人間なのである。
恋愛選んだところで完全に一方通行だしね。
だからフローラン君にはときめくことはなかった。「美少女いいなぁー」とは思ったけど。
ジュリアンは天使なので別カテゴリだ。
で、このジル少年は今まで身なりに気を使うことができる環境にいなかったのだろう。服はボロボロで肌も薄汚れているが、確かにどことなく品がいい。
ジル少年は私が入室したことに弾かれたように顔を上げるが、しばらくこっちを見たあと、俯いてしまった。
きつねさん怖くないのに。
むしろ美少年を観察させてもらって感謝でいっぱいなのに。
じっと見るのは失礼……とはいえ、私は狐面で、視線も定まらない人間なのでじっくり見させてもらう。
こういうときは、やっぱり仮面は便利だ。
もう1人に顔を向ける。
こっちは30前くらいの年齢だろうか。
堂々とした体躯の……やけに顔色が悪い人間だ。
顔立ちは似ていない。家族ではなさそう、かな? 2人の関係がよくわからない。
なんていうんだろうなぁ。顔の形が角ばってて……うーん、顔の形が六角形だ。
そして同じように服はボロボロ。
ジル少年はソファに座り、もう1人の男はそれを気遣うように側に立っていた。
一緒にきてくれたアメリーお義姉様に目線を向けると、静かに首を振られた。
アメリーお義姉様の情報網を持ってしても知らない顔らしい。
男は顔を伏せたジル少年を一度見てから……
「うわっ」
思わず声が出た。
男がいきなり平伏したからだ。
「えっ? な、なんですか?」
私の動揺の声をかき消すように男が声を出す。
「大変に、申し訳ございませんでした」
えっ? えっ?
「家名を隠して面会を求め、あなたのお人柄を試させていただいたこと、伏してお詫びを申し上げます。ご不快に思われるのであれば、発案の私を罰してくださいませ。お坊っちゃまは私の言葉に従っただけでございます」
あ? あー?
少年は……男の横に並んで平伏した。
「お坊っちゃま!」
「私は、この者の指示を承認いたしました。このものは罰せず、私を罰してください」
……自分の罰を求めるか。
ノブレス・オブリージュ……服はボロボロだけど、名乗り通り貴族か。
「いえ、別に不快というのはないので立ってくださいませ。そちらのお方は大変にお疲れのご様子ですし、立っているのは大変でしょう。椅子に座ってくださいませ……あら、お茶も出ていないではありませんか。シャルル、お客様にお茶とお菓子を」
「おぉ、これは気づかず、大変失礼致しました。すぐに用意させましょう」
シャルルは私の言葉に深く頷く。
それまで、どう扱っていいのか迷われていたこの2人の人物は、私の言葉によって正式に当家のお客様になった。
「うわぁ」
ジル少年は運ばれてきたクッキーを見て目を輝かせる。
眼福かよ。美少年の嬉しそうな顔は世界を元気にするなぁ。
「んっ」
しかし男の咳払いで笑顔を消して、また俯いた……と思ったら男は咳払いじゃなかったらしく、なにか痛みを堪えるような顔をした。
「ジョゼフ、大丈夫かい?」
「お坊っちゃま、ありがとうございます。傷が急に痛み出しまして……」
傷?
「お怪我をしてらっしゃるの? えっと、ジョゼフ様でよろしいのかしら?」
「……はい」
男……ジョゼフは諦めたように私に顔を向けた。
「本当は、もっと早くにこちらに……ジェルメーヌ様への面会を求めるつもりだったのです。しかし私は怪我を負い、その治療のために服も装飾品もすべてお坊っちゃまが売り払われてしまいました。このような卑しい身なりなのは、すべて私の不徳の致すところでございます」
ジョゼフは一度目を伏せてから、決心したように顔を上げた。
「ジル様は、ロジェ・ウヴェナー様の弟、ジル・ウヴェナー様でございます」
なるほど。ウヴェナー。
私の婚約者の!?
ウヴェナー伯爵家の!?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん