来客
「アメリーお義姉様、お待ち下さい」
そう、誤解されたのなら、誤りを正せばいいのだ。
「私だけが年下の美少年のことを好きなのではありません。乙女ならば私だけでなく、皆、年下の美少年を愛でたいものなのではないでしょうか」
アメリーお義姉様は口元でに手を当てて考える。
「……なるほど。それは確かに同じく女性に生まれたものとして一面の真理としてわからなくはありません。しかしそれをジュリアンの親である私に話す意味とはなんでしょうか」
あ、この話の流れは非常にまずい。
ジュリアンは美少年カテゴリじゃなくて天使カテゴリなんだけどなぁ。
いや、そうじゃなかった。
「……マリオン、なんでそんなことを聞くの?」
そしてなぜ私がアメリーお義姉様にこのような仕打ちを受けなければならないの?
マリオンはすごく困ったような顔をした。
「いえ、ジェルメーヌ様のお客様なのです……しかし貴族と名乗っておられるのですが、その割には先触れもありませんし、身なりは貧しいですし、どう見てもいわゆる戦争難民ですし、お嬢様がお会いなさるような方ではないなー、と……お酒を与えて追い払ってしまいましょうか?」
普通与えるのはお金じゃない?
ベロベロにしてどうするのよ。私をベロベロにさせてほしい。
「お客様は私の名前を出しているの?」
マリオンは困った顔のまま頷いた。
「12、3歳くらいの目が覚めるような美少年です。それと私達より年上なくらいの青年……あ、青年の方は癖がある顔立ちで美青年ではないと思います。その2人が面会を希望なさっているのですが、ジェルメーヌ様の名前を出している割には自分の家名は『ジェルメーヌ様本人が来られるまでは名乗りたくない』と」
名乗りもしないのか。それは警戒するところはわからなくもない。
「しかも、シャルル様も見たこともない方だと」
ありゃ、シャルルも知らない人物なのか。
シャルルはペドレッティ家の家の中のことをすべて取り仕切る人物だ。
家宰という役職にどれだけ権力が集中するか想像してみるといい。
松永久秀。
太田道灌。
高師直。
ほら、なんともいえない表情になっちゃう。
そもそも私がアドリアンに文字を教えたり、マリオンがここに勤めるようになる以前は、家族以外で文字の読み書きができるのはシャルルだけだったのだ。
ここ十年のペドレッティ家で起こったことはすべて把握している人物だと思えばいい。
それが知らない人物であるということは……
「実は私もジェルメーヌ様の名前を出しているとはいえ、ただの物乞いにしか思えなかったので追い返そうとしたんです。そしたらシャルル様が、なにかが引っかかるので、一応ジェルメーヌ様に来客を伝えてほしい、と……」
「引っかかる? 他になにか言っていた?」
引っかかる、ってなに?
シャルルも知らない人物ってことは、本当にうちには関係ない人物だと思うけど……
「ジェルメーヌさん、私はセリーヌさんに声をかけてきます」
アメリーお義姉様の声に顔をあげる。
「いえ、むしろ一緒に会っていただきたいです。アメリーお義姉様は私よりも遥かに多くの人と関わっておいでですから、シャルルが知らない人物でもアメリーお義姉様が知っているということはあり得ます」
「お忙しいところ、大変申し訳ございません」
シャルルは恭しく私に頭を下げた。
客間のドアが閉まっていることを確認して、中に聞こえないように小声でシャルルに尋ねる。
「いえ、それはいいのだけど……マリオンから、なにかシャルルが引っかかることがあると聞いたのですけど……」
シャルルは私の質問に遠い目をした。
「今日訪ねてこられた方々は間違いなく初対面でございます。しかし年若い方は服は薄汚れて物乞いに見えますが、どこかで教育を受けておられたことは間違いありません。それに……」
シャルルは顔をしかめた。
「それだけであればお引き取り願ったのですが……私も確信は持てないのですが、そのお顔立ちが、今まで私が会ったことがある方の面影があるような気が致しまして……どなたかのご親族の可能性がございます」
誰かの親族? ……美少年?
首を傾げる。
「家名は名乗っていないというのは聞きましたが、なんと名乗っておられるのですか?」
「ジル、と」
ジル。うん、知らない。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん