判官
フランク・ケルシアがフランソワーズ・ケルシアだとしたら……
「ははっ、もしあの娘がティボー・ガスティンの元で、男装して大司教を名乗りだすようなら、あいつは女だと告発してやりゃいい。ケルシアの親父には息子はアランしかおらず、偽名を使ったところで娘であることを示す資料は教団にいくらでもある」
大司教は少し考えたようだったが、やはり相手にはならないと思い直したのか笑い飛ばす、けど……
「いえ、そうなったら、やり方によってはとても厄介です。『メンディ大司教が自分の父親の仇である』と周知した上で男しかなれない大司教を名乗るために、男装して、女の命とかいう髪も短くして……そこまでしたら民衆の同情が集まっちゃいませんか」
私の言葉に大司教の笑いが止まった。
「今、お前、女の命『とかいう』って言った? さすが、女捨ててるなぁ……」
黙らっしゃい。ぶち転がすぞ。黙らっしゃい。
……五七五になってしまった。
「こういうときの民衆の力は侮れませんよ。民衆にとって、地元はまさにホームグラウンドですからね。いくらでも匿えますし、逃せます。時間を稼がれるのはいいことではありません」
大司教は完全に笑いを止め、難しい顔で考えはじめた。
「確かに、民衆はそういうストーリーには弱いな……匿ったり、落ち延びさせたり、というところまでできるとは思わんが、フランソワーズを処断したら俺が悪役に仕立て上げられちまいそうだ」
源義経なんか今でも愛されキャラだもんねぇ……
「娘の方も捕縛に全力を出すとしよう。しかし……」
大司教はにやっと笑って私を見た。
「ジェルメーヌお嬢ちゃんは悪巧みがお得意だねぇ。どうだ? このまま結婚できねぇようなら俺の妾にならんか?」
ぜーったいやだ。
「大司教猊下は、そんなにベルナールお兄様と親族関係になりたいんですか?」
「ジェルメーヌお嬢ちゃんの中で俺はどんだけベルナールのことが大好きなんだよ。気にいってっけどな!」
大司教ががははと笑いながら通信が切れた。
やっぱり気に入ってるんじゃない……
しばらく時間が流れた。大司教は逃げたフランソワーズ嬢の足取りは、まだ掴むことはできていないようだった。
学園の卒業まであと数日という時期。
もうすでに講義はないためほとんど登校もしていない。
エルザはサリウ氏の看病のため、毎日うちにきている。
サリウ氏を看病したあと、少し私達とお茶をしてから帰っていくのが日課である。
3日に1回くらいのペースで「仕事はしないでって言ってるでしょ!」という怒り声が聞こえてくる。サリウ氏、大人しくしててほしい。
卒業して寄宿舎から出ることになったら、うちに滞在することになっているので、これからがちょっぴり楽しみだ。
美少女は卒業次第結婚することになったということで一時帰国中だ。
招待状をもらった。美少女は幸せになってほしいし……あの美少年が美少女を泣かせたら絶対許さないからな。
美少女が不幸になったりしたら挙兵レベルだと思って、しっかりと美少女を幸せにしてあげてほしい。
いや、違うな。
お互い幸せになってほしい。
マリオンは私の元で仕事を開始した。
ロタン教授推薦の魔力と、うちでは家族以外では家宰のシャルルと、私が教えたアドリアン以外はできない読み書きができる人材だ。
その上、実家はお酒を造っているので分けてもらえるし、学園で1年間付き合っただけあって私の意図を汲み取ってくれるし、お酒は美味しい。
ロランスはあと1年、学園生活が残っている。
もともとかっこいい女の子だし、いじめは病の完治以来なくなったということで、むしろファンが増えているらしい。
かっこいいもん、仕方ない。
そして……
「あのー、ジェルメーヌ様……」
マリオンが執務室にやってきた。
ちょうどお父様は留守で、私はアメリーお義姉様と一緒に書類仕事をやっていた。
「どうしたの、マリオン?」
「あの……ジェルメーヌ様って年下の美少年はお好きですか?」
なんだ、その質問は。
「ジェルメーヌさん、あなたは……」
アメリーお義姉様にすごい目で見られた。私、悪くなくない?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん