法則
「で、他に聞きたいこともあるんじゃねぇのか?」
「ありますあります」
魔具のことも重要だけど、こっちも大事だ。
ただ、その前に……
「人形使いはいい子にしてます?」
「おー、手間のかからんいい子だぞ」
手間がかからないとか、そんなことあるか。
「……結構反抗的な子だと思ったんですけど、どんな手を使ったんですか。目を抉りましたか?」
「そういう方法もないわけじゃないけどな」
ないわけじゃないんだ……
「過去にはそういう事例もあるしな、実際。目を抉ったら手っ取り早いだろ?」
どうか同意を求めないでほしい。
「魔法ってのはな、魔法なんだよ」
「はぁ」
なに言ってんだこいつ。
私の顔に大司教は嫌そうな顔をした。
「……そういう顔やめろよ。傷つくんだぞ」
傷つくような繊細さ、あるんだ……
「まぁ、いいや」と呟いて大司教は話を続ける。やっぱりあんまり傷ついてないんじゃん……
「魔法ってのは、法なんだよ。さっきの魔具の話じゃねぇが、法則がある」
まぁ、魔法って名前がつくくらいだからそうなんだろう。
「魔法は……正直、魔力を持ってねぇやつには理解しづらいことなんだが、脳内で魔法語とでもいうべき特殊な言語で考える能力なんだ」
ふむ?
その昔、ユーリお兄様が……
……ちょっと待って。ユーリお兄様のことを思い出したらちょっと涙が出た。
……
よし。
その昔、ユーリお兄様が魔力30になる決定的瞬間のイベントに立ち会ったことがある。
あの時は確か、ユーリお兄様はいきなり遠話の魔法をぶっぱしたっけ。
「……ということがあったのですが、これはどういうことなんでしょう」
「ふむ、そんな場所に立ち会うなんて珍しいな。だが説明はつく」
私の話に大司教は頷く。
「さっきも言ったが、魔法ってのは魔法語で考える能力だ。この魔法語は、ある程度の魔力を持ってたら脳内に溢れ出すもんだ。俺は生まれた瞬間から魔力を持っていたから当たり前の光景だが、それまで魔法語を認識してなかったやつがいきなり脳内に魔法語を溢れさせて、とりあえず魔法語で考えてみたら遠話の魔法になってしまっただけだろう」
そこで大司教は真顔になった。
「お前、運がよかったな。ユーリ殿が遠話を考えたからよかったようなもんを、攻撃的なことを考えてたら、お前今ごろ生きてねぇぞ」
私も真顔になる。
「ユーリお兄様は人を傷つけることを考えるような人じゃありませんでしたから」
「聖人認定今からでもしようぜ」
うるさいよ。
「で、だ、人形使いだが、魔法を使う上で重要な単語を、俺の魔法で忘れさせてやった」
「重要な単語、とは?」
例えが難しいのか、大司教は難しい顔をする。
「そうだな……例えば数字の7だ。数字を数えていく」
大司教は指折り数字を数える。
「1、2、3、4、5、6……6の次はなにか思い出せない」
大司教は右手に5本の指と左手に1本の指を立てながら私を見た。
「8はわかる。でも6の次が8じゃないこともわかる。7の概念が魔法を使うために絶対に必要だから6の次を理解しなきゃいけねぇのに思い出せない。そういう魔法だ。これで複数の単語を忘れさせた。だから人形使いは俺が死ぬまで魔法を使えねぇよ」
死ぬまでっていわれると人形遣いに同情しちゃうなぁ。
「あ、魔法についてもう一つ、質問いいですか?」
「おう、なんでもこいや」
私は仮面が人形使いのサンディ・アンツに対する忠誠を忘れさせた話をする。
「……こんな魔法ってありますか?」
「いや、お前……」
大司教は難しい顔をした。
「それは魔法じゃない……というか、お前……まさか、その仮面ってやつは、王族か?」
ばれた。大司教には隠してた情報だったんだけどなぁ。
「王族に伝わる秘法がある。もちろん俺も使えん。ルイーズお嬢ちゃんもまだ若すぎて伝えられてないだろう……ただ、その中に精神を支配する術法があったはずだ」
ありゃ、それは取り急ぎジャンさんに丸投げしなくては……
いろいろ考えていると大司教が鏡の外の方を向いた。
「おう、どうした……おぉ、マジかよ! ちょうどジェルメーヌお嬢ちゃんと話をしてたところだ! ちょうどいいな!」
なにが?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん