行儀
「んー?」
目が悪いのでこっちからも近づいて顔を見ようとするとギョームそっくりさんは後ろに下がった。
「普通そっちからくるか?」
「よく見えなかったもので……」
呆れたような口調のギョームそっくりさん。
「んーっと、名前はギョームさんでいいんですか?」
「かまわんよ。短い付き合いだ」
そっくりさんじゃなくて、一応本人らしい。それも本人申告でしかないけど。
「そんなことより、ギョームさん以外のお2人、すごいじゃないですか! 人相書きそっくりですよ! あのお2人には物事を正確に伝える才能がありますね!」
いや、ほんとそっくりだ。あの護衛さん達は褒めてあげなきゃいけない。
「あ、あぁ、そう……君は物怖じしないね」
したら逃してくれるのかよぉ……
私の身体能力でどうにかなるシーンとは思えない。
「やりづらいね、君は」
だったらこのまま逃げていただいても結構ですけど?
「ギョームは部屋にあったテーブルに勝手に座った」
「僕の行動を指定しないでくれるかい? 座るけど」
ナレーション入れたら座ってくれた。いや、テーブルじゃなくて椅子に座っていただきたいところ。非常に行儀が悪い。
「言っときますけど、テーブルに座るの、セリーヌお義姉様はめちゃめちゃ怒りますからね? あの人はあんな感じですけど行儀にはうるさいですよ」
「知らないよ……」
若干疲れたような声を出すギョーム。
「で、冥土の土産になにか聞きたいことはあるかい?」
えっ、それ、そっちが言っちゃうんだ?
「意外です。聞いて答えてくれるものなんですか?」
「違うよ。そっちから聞いてくるなら拒絶しようとしたけど、なかなか聞かないからじゃないか」
それ、私が悪いん?
「……そちらの都合じゃないですか」
「うるさいな。もう殺そうか?」
睨んでくるギョーム。
「はたしてきつねさんは生き残ることができるのでしょうかっ」
「わかった。殺すわ」
立ち上がるギョームに声をかける。
「毒がバレたことはどうやって知ったんですか?」
立ち上がったギョームから当惑するような雰囲気が伝わってくる。
「……なにそれ?」
「冥土のお土産ですけど?」
首を傾げてみせる。
「あのさ、聞くとすれば他にない? サリウ・シクスの殺害依頼をしてきたのは誰か、とか」
思わず肩をすくめる。
「そんなの絶対に答えてもらえない質問じゃないですか。私が依頼主ならあなたぶち転がしますよ」
「……サリウ・シクスに魔具を持たせていたんだ。魔具を持った人間の周囲の声は、このピアスから聞こえてくる」
便利だなぁ。ほしいなぁ。
「ワンセットなんですか、便利ですね」
ピアスを見ようと思って近づいたら、その分下がるギョーム。私を殺すんじゃないのかよ、ギョーム……
「近づいてくんなって……」
「照れ屋さんなんですか?」
照れ屋さんというのは「照れ」を取り扱っている専門の業者のことです。
「で、私を殺すとのことですけど、それからどうするんです?」
「んー?」
ようやくまともな会話になったとばかりギョームは笑顔を浮かべた。
「サリウを殺すのは今日の時点では無理だ。だが古今東西、暗殺を食い止める方法などない。あのおっさんはいつでもやれる」
暗殺と誘拐は、営利じゃない限り食い止めるのは無理だ。
いつかは成功する、というのは確かにその通りである。
「でもね……」
「あん?」
私の言葉にギョームはこっちを向きながらナイフを抜いた。あぁ、もう終わらせるつもりなのかなぁ。
「暗殺者に対する暗殺だって食い止める方法はないのではないかしら?」
ばぅん!
すごい音を立てて私の部屋のドアが吹っ飛んだ。ギョームは慌てて、バックステップして距離を取る。
そこには剣を持って仁王立ちするセリーヌお義姉様がいて……
「そこのあなた、このような夜遅くにレディも部屋に忍び込むなんて行儀が悪いですよ」
ほら、行儀を怒った。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん