組織
エルザは一晩うちに泊まることになった。
……とはいえ、夜の女子会とかそういう雰囲気ではもちろんないわけだが。お父さんの暗殺未遂なんてさすがにショックが大きすぎるだろう。
サリウ氏はまだ目覚めない……ファンニ医師の診察によればすでに峠は超えているので、もう大丈夫ではあるらしい。
護衛のAとBには、いなくなったギョームの人相書きを作ってもらっている。ここに至って、AとBはようやくただ事ではないらしいと気づいたようで、積極的に協力してくれているようだ。顔を変えられる魔法なんてものはあるのかなぁ? ギョームには魔力もあるらしいし、その手の変装魔法があったら面倒なことになりそうだ。いや、ただでさえ領民全員から探そうとするなんて面倒なことこの上ないのだが。
そして私は……
「シクス侯爵家領の犯罪組織、ですか?」
アメリーお義姉様は私の質問に目を瞬かせた。
「はい。サリウ様のことはすでにある程度ご存知かと思いますが……」
「えぇ……サリウ様には私も子供のころから、実の娘のようによくしていただきました。とても悲しいですね」
アメリーお義姉様は眉をひそめる。やはりサリウ氏はいい人らしい。
「犯罪組織……うーん」
「医者殺しの手際から、少人数の組織とは考えづらいのです。かなりしっかりした、しかも人数も多い組織である可能性が高いように思えますわ」
ぶつぶつと呟きながら考えをまとめるアメリーお義姉様に補足する。
医者殺しとサリウ氏の私兵として混ざっていたギョームだけじゃない。医者を味方に引き入れるときに説得する役はいるだろうし、毒の調達薬も必要だ。そもそもここまでしっかりしている組織がサリウ氏1人だけを狙っている、ということもないだろう。
「うーん、そうです、ね」
考えをまとめるようにアメリーお義姉様が首をひねりながら口を開いた。
「あの街に古くからの顔役が2人おられます。2人とも犯罪ではありませんが、賭け事などの元締めです。犯罪者の組織というのは聞いたことがありませんが、その2人であれば毒を扱うものも調達はできるのではないかしら」
なるほど。組織はあるわけだ。
賭け事なんかを取り扱ってるなら、多少荒くれた人材もいるだろう。
怪しい。なお、証拠どころか怪しいという印象以外はなにもない模様。
「ところでジェルメーヌさん、気付いておられますか? サリウ様が医者にかかったのは5年前からなんです」
そうなんだよなぁ。
サリウ氏は5年前から医者にかかっているのだ。
つまり2年前からの王家の起こした、この戦乱とは分けて考える必要がある。
サリウ氏が服毒しはじめたのと、時期がかぶるから戦乱からの流れと思いがちだが、これは無関係な事象なのだろう。
サリウ・シクスというシクス侯爵家の盾が、毒によってずっと本気を出せなかったなんて、直接争っていた王家は大変助かったのでしょうよ。
「……まぁ、兄は私以上に犯罪組織には詳しく、元締めとも直接の面識があるはずです。そのあたりは兄に任せていただいて問題ないと思いますよ」
ジャンさん、過労じゃないかなぁ……
夜中に目が覚めた。
寒! さっむ! え、なんで?
ベッドに横になったまま見渡すとカーテンが夜風にそよいでいた。
いやいやいや、冬だよ、今! 窓なんかなんで開けるのよ!
窓を閉めるために立ち上がろうとして……
「誰?」
部屋の隅に誰かいるような気がした。
男か女かもよくわからない。そもそも、夜な上に私は火傷以降視力が弱体化してるし。
「寝ているときも仮面のままなんだね。恐れ入った」
部屋の暗がりから男の声がした。
部屋中を、むっという殺気が漂う。
「余計なことをしてくれた。数年来のサリウ・シクス暗殺計画がぱぁだ」
そいつは部屋の隅から私の方に向かってゆっくり歩いてきて……
窓の横を通ったとき月明かりに顔が照らされた。
AとBの語るギョームの人相書きそっくりの男がそこにいた。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん