容疑
医者が誰に殺されたのかわからない。
しかし時間的にはファンニ医師が治療をはじめたあたりの時刻に殺されたらしい。
誰かが毒の存在に気づかれたことをシクス侯爵領の誰かさんに報告し、その誰かさんが医者殺しをしたのだろう。
タイミング的にはそんな感じだ。
シクス侯爵領の誰かに報告したのは誰か……
誰かがサリウ氏の逗留を見越して、ペドレッティ家に潜入し、はじめて逗留したサリウ氏が吐血し、それをファンニ医師に見られてしまったのでシクス侯爵領の誰かさんに報告した。
そんなことあるぅ?
気が長すぎるだろう。
サリウ氏がうちによく泊まっていくなら、そういうのも悪くないかもしれないけど、はじめてのことだし、今後も……あるかなぁ、そんなこと。エルザも私も今年で学園卒業だし、エルザのためにここにくるということもなくなるわけで……
まぁ、うちの家人が誰かさんの手のものというわけじゃなく、一時的に「こんなことがあるんだったら教えてよー」くらいの軽いノリで利用されている可能性はゼロではない。
ただ、連絡方法としては遠話の魔法くらいしか思いつかないし、たまたま軽いノリで利用した子が実は私達すら知らない魔力持ちだった! ……なんてこと、あるぅ?
可能性がゼロではないというだけで極端に低い。
じゃあ可能性として高いのはなにか。
サリウ氏の家人となって、ずっと近くにいればいい。
それができたのは2人……護衛についてきた兵Aと兵Bだ。
「サリウ様の家人を洗わなければなりませんね。あとサリウ様は私兵を数多く雇っておられますから……今日の護衛もそのうちの3人ですから、その素性も確認しなければいけませんね」
ジャンさんも同じ考えになったらしい。
いや、ちょっと待って。
「3人……」
うちには2人しかきてない。
「……事前にサリウ様から預かった予定には3人の護衛を伴って、と記載されていますね」
「少しお待ちを。3人目について確認して参ります」
兵Aと兵Bに、毒のことは明かさないまま3人目について聞いてみる。
3人目はギョームという名前で……魔力を持っているらしい。
所領に入ったときに別行動することになったそうだ。
サリウ氏の私兵団に入団したのが5年前。ちなみにサリウ氏が毒医者にかかりはじめたのも5年前だそうだ。
「別行動って……仮にも護衛がそんなこと認められるんですか?」
私の問いにAとBは顔を見合わせた。
「サリウ様は寛大な方なので……ギョームがこの街に昔馴染みがいると言ったらあいつへの自由行動を許してましたね」
「そもそも、ペドレッティ伯爵様は心強いお味方ですから、この街でなにかが起こるなんて誰も思ってなかったというか……そういえば夜までには合流するって言ってなかったか? 遅いな」
サリウ氏ぃ……
ギョームはなんらかの方法でサリウ氏を監視していた。
魔法じゃなくて魔具によって監視というより魔具を身につけている人物の周囲を探ることができる、というのは以前私も教わったことがあったから、恐らくそれだろう。
毒がバレたことを悟ったギョームは、ペドレッティ家での合流を断念し、シクス侯爵領の誰かさんにすぐに連絡をする。
誰かさんは連絡を受けて医者殺しを決行……という、なに一つ証拠はないが、状況だけで推理でもなんでもない想像をするとそんな感じだ。
昔馴染みというのが本当かは知らないけど、もし本当だとしたらこの街にもサリウ氏を疎ましく思っている集団の構成員がいる可能性も出てくるなぁ……街の住民も洗う必要が出てくるということか。
ジャンさんに私の想像と一緒にAとBに聞いたことを報告すると頭を抱えたようだった。
「とりあえず……エルザ様にはしばらく秘密にしておいたほうがよさそうですね……」
「確かに」
エルザはいい子なんだけど、秘密を共有できるかと聞かれると、うーん……微妙!
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん
ギョーム:アルベルト・ジラルディーノ