疾病
「サリウ様、お久しぶり、です……わ? えっ? ちょっと?」
思わず素が出た。
それくらいサリウ氏の顔色が悪かったからだ。
外交の使者としてやってきたサリウ氏は一目でわかるほど弱っていた。
顔色もそうだけど呼吸音がおかしい。ひゅーひゅー言ってる。それに汗も……今は冬なのにだらだらと流れている。え、これ、本当におかしくない?
「サリウ様、ちょっとこちらに! 座ってお休みください!」
パスカル・シクスもなに考えてんだ。ここまで体調悪い人を働かせるなんて! って思ったけど、シクス侯爵領からこっちに移動するまでの間に体調悪くなったのかもしれないね! ごめんね、パスカル・シクス!
「……久しいね、ジェルメーヌ殿。心配させてしまって申し訳ないが、まずは……ペドレッティ伯爵閣下と話を進めなくては」
ワーカホリックか! 顔色が死ぬ色だもん! そんなことを言ってる場合じゃないでしょう!
サリウ氏が連れてきている護衛の兵達もものすごい心配そうな顔をしている。
「サリウ様はいつごろからこのように体調を崩されたのですか!?」
「はい、昨日の朝まではご健康そうではあったのですが、昼ごろから急に……」
うあー……
そういえば原作ゲーム、王冠の野望でもサリウ氏は「病気」のバッドステータスを持ってたっけ。
そんな人を働かせるなよぉ……と、言いたいところではあるが本人にやる気がある上に能力と周囲からの人望もあるんだよなぁ。でもじっくり治さないといかんのじゃないかなぁ、これ。
「……まぁ、私がここを訪問したことで、交渉はほぼ終わったようなものだから。あとは伯爵閣下と少し話をすれば休むことができるから、案内をお願いできないだろうか」
……サリウ氏はたったこれだけの発言をするのに、つっかえつっかえ、苦しそうな息で、かなりの時間をかけた。いや、おかしいって。休んでほしいですよ、こっちは。
「ダメです! お父様は別に時間で目減りしませんから、まずは休んでくださいませ! そうです。見ているこちらが心配になってしまいますから、私のわがままで休んでくだ……」
「あ、あのー、ど、どうか、なさったんですか?」
上の階から階段を降りてくる声が聞こえた。
「あ、そういえば今日、診察の日でしたっけ。先生、今日もありがとうございます」
ファンニ医師がお父様の診察を終えたところのようだった。
こうしてある程度の平和を享受していると忘れそうになるが、お父様は原作ゲーム、王冠の野望でシナリオ2まで生き残ることができなかった武将の1人である。
死因は疫病。その対策として招いたファンニ医師がずっとお父様の体調を管理してくれている。本当にありがたいことだと思う。
「い、いえ、とんでもありません……そ、そのかたは……!?」
普段はニコニコとずっと朗らかな笑みを浮かべているファンニ医師の顔色が変わった。
「え? どうかなさいまし……」
「……たか」と言い終わる前にサリウ氏が血を吐いた。
「え? えっ?」
私が目を白黒させる間にファンニ医師は全力で駆け寄って、サリウ氏を抱き抱え、その場の床にサリウ氏を寝かせて診察をはじめていた。
「だ、誰か! 水をお願いします! で、できるだけ、たくさん!」
ファンニ医師の大声に真っ青な顔をしたメイドが走っていく。
すでにサリウ氏は意識が朦朧としているようだ。
「大丈夫かね?」
いつの間にか私の側にお父様がいてくれていたが、サリウ氏の様子は尋常ではなく、どう見ても大丈夫には見えなかった。
私は顔を歪める。
エルザに伝えられないじゃない、こんなの……
「先生、サリウ様がかかっておられるお医者様からいただいたお薬です!」
護衛の兵がファンニ医師にピルケースを差し出した。
……あぁ、そうか。サリウ氏も実家でお医者様にかかっていたのか。薬があるなら……
しかし、ファンニ医師はピルケースを見て、匂いを嗅いで、顔をしかめる。
「と、とりあえず、ベッドに寝かせ、ま、ましょう! は、は、運んであげてください!」
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん