未亡
「……興味深いわね」
「えっ、そうなのですか!」
エルザとマリオンに美少女の婚約者が美少年だったことを報告すると、想像通りというか食いつかれた。
君ら、なんでそこで食いついてくるのに普段は恋バナに興味持たないの?
「はわー、やっぱり貴族様は違いますねぇ。美男美女! ナタリー様はお幸せでしょうね!」
マリオンは貴族だからって幻想持つのはやめてほしい。どうせ学園卒業したら私がいろいろ連れ回して現実見せることになるし。
「ご結婚の折にはすっごい高いやつ納品しますよ!」
あぁ、君はやっぱり酒でキャラをつけていく方針なんだな。いいけどさ。君が学園に入った当初の目的だろうしさ。
「エルザさんは婚約者はいないの?」
「そういうジェルメーヌはどうなのよ」
私は……こんなんになっちゃったからなぁ。
ちなみに実はお父様は私がまだ王都の学園に在籍していたころに婚約者として交渉していた人物がいた、というのは最近聞かされた。私自身は会ったことはないんだけど。
ウヴェナー伯爵家の御曹司で、私より2歳上らしい。
このウヴェナー伯爵家は王都の近辺に領地を持ち、ディガール侯爵の傘下にあった勢力で……舞踏会の夜に族滅されている。
御曹司も戦死が確認されて、約束を取り交わす前に私は未亡人になってしまったというわけだ。結婚どころか婚約前から未亡人だ。
きつねさん未亡人! 属性多いな、私。
っていうか、これも未亡人のうちに入るのかなぁ。
「あー、まぁ、そういうこともあるわよね」
エルザもそろそろ乱世に適応してきたな、チクショウ。よくあることとして流されてしまった。
まぁ、実際によくあることなんだろうけど。
あぁ、でも……
……もし私がこの戦乱を乗り切って、ご褒美がもらえるとしたら、認められるのなら私が当主になってウヴェナー伯爵家を再興するのはおもしろいかもしれないなぁ。生き残った子がいたら引き取ったりして……
よし、がんばろう。
「私、は……」
なにかを話そうとしたのか、エルザはぶすっとした顔になった。
「いるんだけどさぁ」
「いる?」
なにがいるんだろう。
「だから、婚約者よ! 婚約者!」
あぁ、そういえばその話だった……って、いるの!?
「意外そうな顔しないでよ」
いたんだったら恋バナしてよ! 恋バナ!
「私は貴族として教育は受けたし、私自身、ノブレス・オブリージュの精神は持っているつもりでいるけど、うちの家はご存知のように貴族じゃないわ」
確かにそうだった。
エルザのお父さんのエリウ・シクスさんはシクス侯爵家の分家筆頭であり、パスカル・シクスの叔父であり、シクス侯爵家の重鎮であり、パスカル・シクスが頭が上がらない人であり、とにかくものすごい偉い人ではあるのだが本人が爵位を持っているわけじゃない。
しかしパスカル・シクスという侯爵本人もエリウさんを敬っているため、貴族に準じた扱いをしているし、私自身、エルザのことは貴族のお嬢さんとして見ている。
「婚約者はいるのよ。サヴィダン公爵の三男で侯爵位を継いだ方なの」
「すごいじゃないですか、エルザ様。侯爵夫人ですね」
私の言葉にエルザは頭を抱えた。
「義理の母になる人がさぁー、貴族じゃないからって認めてくれないのよねー……そこにきて、この戦乱でしょう? 『終結するまでは結婚を認めません!』ですって」
あぁー……
「エルザ様もすっごーい! 障害があってこそ燃える恋なんですね!」
マリオンの感想が前向きすぎる。っていうか燃えてるか?
「燃えるようなお酒もあります!」
どんなんだよ。私に飲ませてくれ。
「失礼ながらジェルメーヌ様は燃えるような恋はなさっておられないので、燃えるようなお酒はちょっと……」
失礼だな、君は。まぁ、いいや。
「ではそんなエルザ様に耳寄り情報を教えて差し上げましょう」
「えー? なに?」
私の言葉に、エルザがのろのろと顔を上げた。
「先日、ちょっとペラン子爵の領地でいろいろあったのですが、その後処理と打ち合わせのためにサリウ・シクス様が当家を訪問されまーす」
という報告を受けていたのだ。
「えっ、お父様が!?」
元気になった。よかった。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん