確率
「わわわわん。わわんわん、わーんわんわん」
うーん、海賊のスラングなんてちっともわからないから脳内で犬語翻訳したけどよくわからないなぁ。
仮面に伝え聞いたところによると人形使いの魔法を使う条件は視覚が機能していることらしい。
だから目隠しだけで魔法が封じられる……今のところはこれは機能しているんだけど、そもそもの条件が違う可能性もあるからなぁ。例えば目隠しの布の裏に魔法陣が描かれていて、視覚ではなく魔法陣によって魔法が封じられているとしても不思議はない。
私はそれくらい仮面を信用できていない。
「セリーヌお義姉様、ここで人形使いの目隠しを取ったとして、もし彼女が悪さをしようとしたら先手を取れますか?」
「もちろん」
力強く請け負ってくれたので再度人形使いを見る。
というか、セリーヌお義姉様つえぇ……
「エクシー様、目隠しを取ってほしいですか?」
「……」
いつの間にかわんちゃんの鳴き声は途絶えて、人形使いは私の方を向いていた。
「てめぇらが言ったように、不本意ながら今のあたしはてめぇらの捕虜だ。目隠しを取る意味はねぇだろ」
「目隠しをしたままで対等といえますか。私は人間とお話がしたいのです」
人形使いは鼻で笑った。
「なにが対等わんわんわん」
また犬語が始まる。元気だなぁ。
「まぁ、私に話さなくても、これからジェルミ教団の方々が悪さをするわんちゃんを躾けてくれます」
私が立ち上がると、人形使いはそれを感じ取ったか、一瞬黙り込んだ。
「どうしました?」
「仮面に気を付けろ」
人間語しゃべれるじゃーん。このわんちゃんは賢いなぁ。
「仮にも捕虜に温情をかけようとしてくれたことは感謝する。あたしは恩知らずじゃない。だから忠告しておく。仮面には気を付けろ」
「サンディ・アンツを裏切ったからですか?」
人形使いは目隠しのままゆっくりと首を振る。
「あたしがあいつに目隠しされる直前、あいつと話をしている最中に、あたしが……このあたしともあろうものがサンディの親父への忠誠を忘れたからだ。あいつに拘束されることを当たり前と感じてしまったからだ。あの野郎がなにかやったのだと思う」
「忠誠を忘れさせる……なんでしょう、魔法かしら。怖いですね」
「怖いですか?」
あたしの感想にセリーヌお義姉様が首を傾げる。
「怖いですよ。忠誠も覆るのなら、愛情だって覆るでしょう。それほど長い期間ではなさそうですが、セリーヌお義姉様にかけたらベルナールお兄様のことを嫌いになってしまうのではないでしょうか」
「怖いです。怖い魔法です」
セリーヌお義姉様は一瞬で掌を返した。
仮面についてきた200人の兵は、この魔法かなにかで精神に隙を作られて、隙間に仮面への忠誠をねじ込まれた、とか……?
まぁ、わからない。
私は魔法の専門家ではないし、メンディ大司教あたりに聞いてみよう。
そんな魔法があるのか。
そんなことが可能なのか。
いったんペラン子爵の屋敷に立ち寄ってから帰還する。
ペラン子爵の屋敷ではかなりの歓待を受けた。
ここで美少女のお兄さんから、美少女の婚約者も紹介された。
「はじめまして。父がペラン子爵より男爵位を賜っております、フローラン・ドゥイスと申します」
緊張しているような面持ちに衝撃を受けた。
なにこの美少年!
美少女と美少年のカップルなの!? そんなことある!? そんな奇跡ある!?
「……ナタリー様にはうちのジェルメーヌさんがいつもお世話になっています」
忘我の境地の私に変わってセリーヌお義姉様が挨拶をしてくれた。ナタリー……?
ナタリーが誰かはわからないけど、美少女と美少年の結婚とかなぁー、しかもペラン子爵から男爵位を受けてる人の息子さんってことは、ある程度政略の意味大きいでしょう?
政略結婚で美少女と美少年が出会う確率ってどのくらいだ?
私は家に帰るまで、ずっと確率の計算をしていた。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん