展開
仮面をパスカル・シクスの元に送り届けるのは、このあと合流する予定のペラン子爵の家士にお任せすることにする。
そういうわけで港は奪還できた。ベルナールお兄様に遠話の魔法で状況説明と大司教に人形使いを引き取ってほしい旨を伝えてもらい、撤退だ。
港の守備兵は突然襲ってきた人形達になす術なく拘束されたようで、だからこそ被害がなかったのは本当にありがたいことだし、それ以上に領民にも被害が出なかった。
いいことだ。
いいことなんだけどなぁ……
「パスカル・シクス侯爵へ口添えいただいたことをありがたく思うよ。国王への刃の一端を担うことができるのは幸せなことだ」
「いえいえ、これも殿下の実行力あってのこと。これからのご活躍に期待しております」
仮面と白々しい会話を交わす。
いろいろと仮面について思うところはあるけど、私にとって一番彼のことについてクリティカルなポイントは美少女を悲しませたことだ。
港を落とされたときの、美少女の悲しそうな顔は忘れないからな!
その実行力のせいで親友が傷付いたのは忘れちゃいけない。仮面は「そんなん知らんし!」という事柄だけど、私にとっては重要。
……でも現状は仮面のことを受け入れざるを得ないのも事実のため、遠話の魔法でジャンさんと再三やりとりした結果、こんな感じに落ち着いた。なお、ジャンさんには私の仮面に対する懸念も伝えてある。
うーん、しかし……
仮面は200人の部下を率いて港に攻め込んできた。
人形使い以外の全員が仮面支持者と言っていいだろう。
しかしこの全員が、もちろん仮面が国王の元から逃れるときに連れてきた兵ではなく、ほとんどがサンディ・アンツの兵だろう。
つまり、仮面がいつごろからサンディ・アンツのところに行ったのかまではわからないにせよ、長くても1年程度の時間の中でサンディ・アンツ派から仮面派に鞍替えさせてしまう程度のリーダーシップを発揮したということだ。
カリスマと言い換えてもいい。
稀有な能力であると思うと同時に、パスカル・シクスの元にこいつを送ることによって、パスカル・シクスの家士達が籠絡されないだろうか。
そのあたりは懸念するところではあるけど……まぁ、パスカル・シクスのとこは人材豊富だし、なんとかやってくれるだろう、きっと。
そして私はペラン家の方々に引き継ぎをして、帰還の途上、セリーヌお義姉様を連れて隔離された馬車に乗り込んだ。
「ごきげんよう」
「貴様らがわっふーん、わんわんー」
いきなり人形使いにまともな貴族が使わないようなよくわからないことを叫ばれたので脳内で勝手に犬語が補完されたけど、やっぱりよくわからない。
「今のところ、あなたに害意はありませんよ」
目隠しの上、縛られた人形使いは狂犬のように喚き散らす。カロリー使っててすごく痩せそう。
「わっふーん、わっふーん、わんわんわわん」
「あぁー、なるほどなるほど。確かに私も現在の税制問題には思うところがあります」
「わわわんわわん。わおーんわん」
「おっしゃる通り、税制改革が必要ですね。しかしそれは簡単なことではありません」
「わおわおわわん。わわわんわん、わっふーん」
「あぁ、それは至言ですね。足を止めていては改革は成し遂げられない。胸に刻みましょう」
「……」
私が真摯に受け答えしていると人形使いは黙り込んだ。
「……誰だ、てめぇは」
それは最初に聞いておくべき事柄じゃなかったかしら。
「はじめまして。ペドレッティ伯爵家のジェルメーヌ・ペドレッティと申しますわ」
「ペドレッティだぁ?」
人形使いは鼻で笑ったようだ。
「北の田舎者の出る幕じゃない! 早くサンディの親父のところにあたしを返せ! 今だったらてめぇらの命くらいは助けてやる!」
「あらあら、そんな北の田舎者なんかに捕虜になっちゃってカアイソウ、カアイソウ。サンディさんもカアイソウ」
ちょっと煽ったらまたわんわん言いはじめて、セリーヌお義姉様に「こらっ、煽らないでって言ったでしょ」って言われた。ごめんて。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん