平安
シルリアの怒気にちりっとセリーヌお義姉様が怒りの表情を見せる。
私にはこの得体の知れない女よりもセリーヌお義姉様の方が怖い。
「……まぁ、人形使いの処遇はいったん置いておきましょう」
なにか貴族の辞書には載ってない言葉で喚き散らす人形使いを横目で見ておく。目は隠れていて見えないけど、髪は金髪のさらっさらなやつだし、肌もつやつやだ。
それで海賊でしょう?
ずっと海賊として育てられてきたんでしょう?
これだけサンディ・アンツに忠誠誓ってるんでしょう?
絶対にサンディ・アンツに性的に可愛がら……
「ジェルメーヌさん、どうしました?」
おっとっと。
シリルアも面倒そうにそっちをちらっと見た。
あなたはこいつをここまで連れてきた立場だからね。そっちが面倒そうな顔したら「いらないんですぅー。引き取ってくださいー」と言ってるようなもんだぞ。
「まず、『なぜ』というところから伺いましょうか」
「なぜ港を奪うなんてヘイトを買うことをしておいて、降伏をしようとするのか」を聞かないと先に進まない。
シルリアは私を睨みつけてくる。
彼女にとって、仮面が王族であるということは本当にクリティカルなことらしい。まぁ、原作ゲーム、王冠の野望でもクリアしないと実際のところはわからないわけだしね。
「こちらも『なぜ』を伺いたいところですが……」
「いいですよ。お答えしましょうか?」
シリルアの聞きたい「なぜ」はもちろん「なぜ私がそれを知っているか」か……
「答えは簡単です。『ノーコメント』ですよ。あなたに答える義理はありません」
回答を拒否した瞬間、シルリアから私にもわかるほどの殺気が私に向けられ、同時にセリーヌお義姉様が腰の剣に手を乗せる。
「うちの義妹が可愛いからといって、そのような嫉妬を向けられては困りますね、使者様」
……嫉妬って。いや、セリーヌお義姉様もわかってる上で軽く言ってるんだろうけど。
「ジェルメーヌさんもあまり煽らないで」
「はぁい」
怒られちゃった。
「ジェルメーヌ様」
やがて大きくため息のような息を吐き出し、シルリアは平静に戻ったようだ。
「……心の底からあなた様に対して畏怖を感じております」
こんなに可愛いきつねさんを畏怖するなんてなんということか……
「一度持ち帰らせていただけないでしょうか。あなたにお伝えしていいか、ということも含めて私の一存では決められません」
「構いませんけど、それも持ち帰ってくださいね」
人形使いを指差すと、シルリアは「はい」と言いながら微笑んだ。
さっきまでのわざとらしい笑いではなく、とてもすっきりした笑い方で、あの顔が彼女にとっての仮面なんだろうと思った。
「セリーヌお義姉様……もしも、ですよ」
シルリアがいったん港に戻って行ったあと、セリーヌお義姉様と陣中で茶を飲む。
「もしも、今、港を占領しているのが王族だとしたらどうしますか?」
「王族、ですか」
セリーヌお義姉様は眉を寄せた。まぁ、そんな顔になっちゃうよね。
「ヴァンヌッチ国王の弟、ルイーズ王女殿下の兄……」
「ちょっと待ってください」
セリーヌお義姉様が話を止めてきた。顔が心なしか赤くなっている……この人がこんな顔をするなんて珍しいな。
「その条件に思い当たる方が1人しかいらっしゃらないのですが……」
まぁ、王家は多産の家系というわけでもなさそうだから、そう何人も兄弟がいても困るだろう。
「えっと……ジェルメーヌさんは、その王族が、あの港町にいる、と?」
「はい。そうなの、です、が……セリーヌお義姉様、いかがなさったのですか」
どんどんセリーヌお義姉様の挙動が不審になっていく。え、どうしたんですか。
「じぇ、ジェルメーヌさん、実はうちの実家はそこそこの名門でして……」
よく存じ上げております。
「私も、その令嬢として育てられておりました。今は縁あって旦那様と結婚し、幸せな生活を送っておりますが、実は婚約者もおりまして……国王があの舞踏会で狂乱しなければ、私は国王の異母兄弟と結婚するはずでした」
あっ?
あっ?
えっ?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん