正体
陣幕を張って、やってきたシルリアに対応する。
賊ではあっても使者は使者だ。
「あなた方にも事情はある、それはわかりました。しかし、それがなんの関係がありましょう。あの港は我らが盟友の土地です。どのような事情があろうと、それを不当に奪った事実は変えようがありません」
シルリアは笑顔のまま眉を八の字にする。とてもわざとらしい。
「確かにおっしゃる通り。口答えのしようもありません。領民にはなるべく苦痛を与えず、また守備兵の方々もほとんど拘束いたしましたので流れた血は最小限ではございますが、それでも苦痛を与えたと言われればその通りでしょう」
あぁ、守備兵はどこかに閉じ込めてあるだけか……よかった。
「おい」
シルリアがいきなりあんまりな口調になったので顔を上げると、部下の兵士に声をかけたところだった。
目下と思った人間には対応がぞんざいになるタイプか。
「はっ」
声をかけられた兵士は陣幕の外へ出ていき、それから目隠しをされ、体を縄で拘束された金髪の少女を乱暴に連れてきた。
「てめぇら、ぶっ殺してやるぞ! サンディの親父が手を下すまでもない! あたしのかわいい人形達が、てめぇらの肉を引き裂き、血の一滴まで噴き出すような死に様を味合わせてやる!」
……見た目の可憐さに似合わず、ワイルドな発言をする少女だ。
「セリーヌお義姉様」
セリーヌお義姉様に声をかけると、しばらく少女の方をじーっと見た。
「……はい。街の中心で磔にされていたのは、この子ですね」
はぁー、なるほど。
「あら、街も見ておられたのですね。では港に被害がないこともご理解いただけたかと思いますが、さらにこの女の身柄を引き渡しましょう」
口元に手を当てて考える。
「人形使いを引き取っても、当方に得があるとは思えませんね」
「あぁ、さすがはジェルメーヌ様ですわ。もう人形使いの種が割れているなどとは思いもよらず、大変失礼致しました」
大袈裟に謝ってくる。大変わざとらしい。
「今も喚いておられる内容通り、彼女はサンディ・アンツ氏にとてもよくしてもらっておられるご様子。あなた方のおっしゃることが本当だとして……彼女はお目付役にはうってつけなのでしょうね。それを引き取っても、大事に保護しておくしかありませんわね」
「まぁ!」
シルリアは大袈裟に目を見開く。わざとらしい。なんだこの人。
「これは名を馳せるジェルメーヌ様のお言葉をは思えません……見ての通り、この小娘はサンディ・アンツにだけ忠誠を誓っています。であれば、国王領の中心にこの小娘を置いておけば、国王に被害を出させた上で勝手に自滅してくれますわ。いわば攻城兵器のようなものでございます。人の形はしておりますが、所詮は道具でございますよ」
私は縛られたままの少女を見た……私はどんな名の馳せ方をしているというのか。
少女は口汚くシルリアや仮面のことを罵っていた。貴族の辞書には乗っていない単語ばかりなので、意味はほとんどわからない。
しかし、それでも、目隠しをされていても美しい少女であることは容易に想像がつく。
「シルリア様、私達は貴族でございます」
「えぇ! えぇ! もちろん存じておりますわ!」
実は原作ゲーム、王冠の野望の設定資料集で仮面の正体は断言されていない。
ゲームのエンディングでは明らかにされているらしいが、私は仮面でクリアしたことがないので知らない。
でも、そういうことなら……
「貴族には誇りがございます。少女を……人間を兵器扱いするようなことはできません。王族の誇りはまた別なのかもしれませんが」
シルリアの表情が消えた。
この人、怖い。
仮面は「国王ヴァンヌッチ、王女ルイーズの腹違いの兄弟であるルッキーニであるらしい」と、設定資料集に書かれていた。
断言はされていないのだ。仮面でクリアしたらエンディングでなんか語るのかなぁ。
だけど、パスカル・シクスがルイーズ殿下ちゃんを保護している現状、こちらに近づいてくるということは……
偽物であれば、ルイーズ殿下ちゃんと会話をすればバレるに決まっているにもかかわらず、こちらに近づいてきたのは、多分……
「ジェルメーヌ様、あなたは……なにを知っているのですか」
シルリアが猛獣のような低い声を出す。怖。
「私はなにも知りません。一介のきつねさんですから」
あぁ、仮面いいわ。表情が消せるのってこんなにもメリットあるんだね。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん