使者
セリーヌお義姉様にみてもらった結果、住民にそこまで自由がないわけではないらしいことがわかった。
なんらかの制約などはあるらしいけど、それなりにいつもの暮らしをしているらしい。
「なるほど。確かに賊もいますね……今のところ共存しているように見受けられます」
共存。賊と。
「数はそこまで多くなさそうですね。予想通り多くても200人」
「あら、数えたのですか?」
賊らしい人と、元々の領民の見分けがつかない。
「いえ、港に停泊している見慣れない船……恐らく海賊船なのでしょうが、1隻100人程度を運ぶことができると見受けられます。それが2隻ですから多くて200人、と」
あぁ、そっちか。
でも、なるほど。
港には、いわゆるドラゴンシップによく似た形の船が停泊していた。
「戦うための船」であり、雰囲気が他に停泊している船とは明らかに違う。
でも、そう考えるとガスティン侯爵の考えというのはいかに荒唐無稽かがわかる。
「海上でに行動に慣れた」サンディ・アンツでさえ、長距離であれば200人を運用するのがやっとなのに、ただ港を取るだけで行動が可能というのは短絡的すぎる。
気持ちはわかるが現実的ではない。その意味でガスティン侯爵は初手から誤ったのかもしれない。
私がガスティン侯爵だったらどうしただろうか……?
初手から全兵力で、辺境仲良しクラブを蹂躙して、じっくり国力を上げてからパスカル・シクスにプレッシャーを与えていく。パスカル・シクスにとっても同盟相手がいなくなるわけだから、徐々に国力を落としていき……というところだろうか。
まぁ、私は立場上、ガスティン侯爵に共感しても仕方がないので、これでよかったのだけど。
「……ジェルメーヌさん、今、見るべきものは見たように思います。軍と合流して、港奪還のために行動しましょう」
「そう、ですね」
サンディ・アンツの考えが腑に落ちないところはあるけど、現実問題として占領されている以上、奪還はしなければならない。
奪還できそうだ。
「なんですって?」
軍を進めていると、「海賊軍の使者」を名乗る女が護衛の兵士と2人で面会を求めてきた。
女は「本当にきつねなんですね……」と呟いたあと、笑顔を浮かべる。
「私の主人は今は故あってサンディ・アンツと行動を共にしていますが、本意ではありません。港町はこのまま返還いたしますので、どうか降伏を受け入れていただけないでしょうか」
「意味がわかりません」
セリーヌお義姉様がばっさりと女の言葉をぶった斬る。
「街の占領により、領民に苦労を与えてしまっています。降伏が目的であれば領民に苦労をかける必要はないはず。あなた達の行動には一貫性がありません」
確かに、一見、その通りではある。
私は使者の女を見ていた。
「『私の主人』とおっしゃいましたね。つまりあなたの主人はサンディ・アンツと志が異なる、と?」
「海賊風情と同一視されることが不本意ですわ」
仮にも今まで行動を共にしてきた相手に対して『風情』ときた。この人、うまく扱わないと、またこっちも裏切られるかもしれないなぁ……
「サンディ・アンツも私の主人のことを信頼していませんでした。ですから私達も単独行動は許されていません。お目付役をつけられていました」
女は大袈裟にジェスチャーをしながら語る。
「しかし、この遠方の地で、油断したお目付役を排除し、自由を手にすることができたのです。領民の方々には大変申し訳ないことですが、この場所の攻撃は私達には必要なことであったとご理解願いたいのです」
原作ゲーム、王冠の野望でサンディ・アンツは最終シナリオにおいて、それまでの部下に勢力を乗っ取られ、追放されている。
その部下の名前は「仮面」という、ゲーム内唯一の漢字表記の武将であり……このシルリアと名乗る女は、その軍師だった。
そうか、こいつら、もう登場してたのか。
シナリオ1には本来いなかったはずだから、油断してたなぁ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん




