純粋
海賊、サンディ・アンツの片腕、エクシー・シス。
シスというのは家名じゃなくて「お嬢ちゃん」くらいの意味で、つまり、あからさまな偽名ということだ。
設定資料集によれば、若いころのサンディ・アンツが襲った船で生き残った赤ちゃんを育てた結果、らしい。海賊なりの英才教育の結果だ。
その外見は……正直なところ私やエルザよりもお嬢様らしいお嬢様だ。まぁ、私はお嬢様じゃなくてきつねさんだけど。ちなみに美少女は存在が美少女なので、お嬢様というカテゴリーには含みません。
さて、設定資料集内のゲーム開発スタッフへのインタビュー記事で、ある1人のスタッフが気持ち悪いほど、このエクシー嬢への思いを語っていた。私は引いた。
そのスタッフは「魔法使いらしい名前」として、この「エクシー」を選んだらしい。
エクシーというのは、とあるロリコン写真家がお気に入りの女の子のあだ名だったそうだ。
その女の子の本名はアレクサンドラ・キッチン。ロリコン写真家の名前はチャールズ・ドジソン……不思議の国のアリスを書いたルイス・キャロルのことである。
……というのを、その開発スタッフが大喜びで語っていた。いらない情報である。
「あの有名なアリス・リデルよりも」って、知るかそんなの。
いやぁ、ドジソンさんのお気に入りだからって魔法使いは違うだろーと、それを読んだ当時は思ったものだ。今でもそう思っている。
しかし現実問題として、かなりの高魔力に設定されてしまっているわけで……
「……聞いているか?」
「はいはい、もちろん聞いていますよ」
開発スタッフのあまりの気持ち悪さに脳内でドン引きして、あんまり聞いてなかった。
メンディ大司教はそれに気づいたのかどうなのか、唇を曲げるような独特の笑みを浮かべた。
「俺にも誰が人形使いなのかはわからん。しかし、100万の軍勢は出せなくても、人形使いであれば人形を使ってくる可能性が高い。少数の人形であれば準備なしでも動かせるだろうからな」
うーん、人形を使って行動できるのか。
「何体くらいだったら、準備なしに同時に動かせますでしょうか?」
「ちょっと待ってろ」
メンディ大司教のにやけた顔が鏡から消える。
「うおっ? おっ! お前、すごいな、大司教!」
「俺はすげぇんだよ! 大司教だからな!」
鏡の外からベルナールお兄様の声がして、ふわふわと浮いた人形が鏡に映ったり消えたりしている。今、やってみてるのか。っていうか大司教と仲いいな、ベルナールお兄様。
やがて再びメンディ大司教が鏡の前にやってくる。
「今、疲れない程度に軽くやってみて、これくらいのサイズを同時に五体だったら余裕だな」
手で大きさを教えてくれる。
大体30センチくらい……私の前世でいえば一般的な1.5リットルサイズのペットボトルとほぼ同じくらいだ。それが五体も、自由自在に襲ってくるとしたらちょっと厄介かもしれない。しかもメンディ大司教は「疲れない程度に軽く」やってみて五体だ。生き残りをかけて本気でやったらもっといけるのかもしれない。
メンディ大司教との通話を終えて、その内容をセリーヌお義姉様に報告する。
「人形、ですか」
セリーヌお義姉様は難しい顔をする。
「対応は難しいかもしれませんね」
やはりそうなのか……
「人を害そうとすれば、『殺気』と呼べるものが、多かれ少なかれ感じられます。それに魔法使いの道具に感じられる独特の気配をあわせれば対応は可能です。上位の魔法使いは、この魔法使いの気配もうまく消していきますが、それでも……恐らくなんとかなるでしょう」
ん? あれ? さっき対応は難しいと言ってなかったか?
「……私は可能です。でもジェルメーヌさんは気配を感じて避けられますか?」
あ、私の対応ね……それは難しい。
「……まぁ、私がジェルメーヌさんを守ってみせましょう」
お、お願いしまぁす。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん