魔法
「さて、改めてだが、ジェルミ教団の大司教なんぞをやらせてもらっている、メンディだ。ベルナール殿とは彼が学園にいたころからの付き合いだ」
だよね。
隠し芸大会やってたんでしょう? 知ってる。
ベルナールお兄様が召喚魔法に異様に詳しいの、メンディ大司教のせいなんでしょう。
あとは地獄魔法とか……本当にまともな魔法使わないな、この人。今のリモート会議がはじめてのまともな魔法じゃないか。
「魔法には得意不得意があるんだ」
地獄属性が得意とか最悪じゃないですか……
「まぁ、それは置いといて、だ。ベルナール殿から軽く状況を聞いた。港街が占領されたんだって?」
「はい。でもそれにしては敵の動きがよくわかりません。港を占領して以降、外に打って出ることがないというのがわからない。
港の重要性は私達も認識している。だからペラン子爵にそれなりの数の守備兵は置いていてもらったのだ。
その、少なくない数の守備兵が一瞬で壊滅させられ、しかし周辺の街を略奪する様子もないことから……港の備蓄を切り崩しながら自前で兵糧を用意している? いや、なんのために……
港だけを陥落させて、兵達は最低限を残して帰還した? ……サンディ・アンツの本拠地は王国の南端であり、ペラン子爵領まではほぼ南北の端と端だ。わざわざ港だけを落として、帰るか? サンディ・アンツは船で港に攻め込んだわけで、船の移動時間を考えると、それだけで帰るなんてあり得ない。時間の使い方が下手すぎる。
「そこでだ、俺に思い当たることがある!」
いきなりテンション上がったなぁー。なんで? 楽しいことあった?
「どうだ。知りたいだろう? 聞きたいだろう? いいんだぞ、教えてやっても」
ニヤニヤしてる。
「ベルナールお兄様、大司教猊下の顔がむかつくので殴っていいですよ」
「あ、やめろ! 物理はやめろ! 話すから! 教えさせてください!」
最初からそう言えばいいのに。
「まず、俺は天才魔法使いだ」
うん、天才かどうかは知らないけど、魔力100なのは知ってる。
「しかし俺にも不得意なものはある。今回の魔法はそれだ」
まぁ、誰にでも得手不得手はあるでしょう。
「まず前提として、苦手な俺がこの魔法を使おうとした場合、1年の準備期間が必要だ。慣れていれば多少は短縮できるだろう」
魔力100をもってして、1年に一度の魔法というわけか。
「その上、発動時間は……俺には一刻がやっとだろうな。どんなに慣れた人間でも半時以上は無理だろう」
一刻が30分。半時が1時間……準備に1年かかってそれは短いな。
「その効果はな……人形を自由自在に操るんだ」
「楽しそうですね」
自由自在って……人形劇でもするつもりか。なんですか? 準備に1年間かけた人形劇でお金儲けをして、そのお金で兵隊を雇って、港に攻め込むって寸法かい?
……しかしメンディ大司教は柄にもなく真面目な顔をして言った。
「……100万体の人形を同時に操れるんだ」
100万……それは……えぇ?
1年に1回だけ、半時だけ、1人の意思で思うがままに操ることができる100万の軍勢を得ることができる。
あ、強いわ、それ。
そんな魔法があるなら、略奪しない理由はわかるし、港から打って出ない理由もわかる。もう大軍は失われているのだろう。
原作ゲーム、王冠の野望では魔法は「魔法」として登場して、戦場で敵にダメージを与えるだけの効果しかない。
細かい設定や描写などなにもなかった。
100万の軍勢を操ることができる魔法なんていうものも……
この王国では1万もいれば十分に大軍だ。
過日のモンソローでの戦いも両軍合わせて40000……
そこにきて短時間とはいえ、しかも兵糧の必要のない100万は……私の想像を遥かに超えていた。
「その占領された港に魔法使いがいるか調べてみるといい。高い魔力を持っているやつがいたら、人形使いの可能性がある」
私はメンディ大司教の言葉に頷きながら思い出していた。
いたわ。サンディ・アンツのところに魔法使い。
金髪碧眼のいかにもファンタジーというような可愛い女の子だったが、魔力は87だった。
エクシー……あれが人形使いか。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん