価値
ペラン子爵領の港という要地がサンディ・アンツによって占領された。
急ぎの奪還作戦が必要になるが、タイミングが悪いことにベルナールお兄様は不在だった。打ち合わせでジェルミ教団領にいっていたのである。あちらはあちらで、ガスティン侯爵になんらかの動きがあった場合は連動して行動しなければならないから念密な打ち合わせは必要不可欠だ。
「そのための私です。安心してください」
セリーヌお義姉様は微笑みながら出陣の準備をしていた。本当に頼りになる。
遠話の魔法でベルナールお兄様に出陣の報告をしてから、私も準備をはじめた。
私が知っている原作ゲームのペドレッティ伯爵家は本当につらい勢力だった。
確かに武力100はいる。
しかしもう1人は……すごくいい人であるとはいえ、ゲーム的な評価は低いし、武将もその2人だけ。
全勢力をCPUにしてプレイした場合、ペドレッティ伯爵家が5年保っていたことを見たことがなかった。
それが今、生き残っている理由は大きく2つある。
一つはお金の力だ。
以前、ペドレッティ伯爵領に女神パルミラが降臨したことがあった。
その地から金が採掘されたのである。
ペドレッティ伯爵家の金庫は潤い、なにをするにも余裕を作ることができた。
もし女神パルミライベントが起きていなかったら……多分クレティアン砦の戦後処理で破綻寸前だったと思う。そして領民に重税を課すことになってしまい、結果として破綻はしないだろうが住民感情は最悪で……あぁ、考えたくない。
今は領民すべてにマネーパワーが行き届いているとはいえないにしろ、戦中とは思えないほど領民の落ち着きが感じられる。
もう一つが人材である。
思えばアメリーお義姉様がそもそも優秀な人だ。
今もお父様の補佐として領地経営に手腕を発揮していて、領民が戦中であるにもかかわらず、それなりに落ち着いているのはお父様とアメリーお義姉様の力が大きい。それにジャンさんの妹であるだけあって人脈も豊富だ。
今、サンディ・アンツに攻め込まれた港も1年前はただの鄙びた漁村だったところを、その人脈を駆使して商人を呼び込み、「要地」といえるまで育て上げたのは100パーセント、アメリーお義姉様の功績である。
そしてもう1人がセリーヌお義姉様だ。
ペドレッティ伯爵家には不測の事態に対応できるいくさ人が1人しかいなかった。お父様は戦場に出てはいけないのでカウントしません。
だから今のようにベルナールお兄様が不在のときには、打つ手がなかったのだ。
しかし今はセリーヌお義姉様がいる。
いくさ人としての格はベルナールお兄様と比べてやや落ちるにしろ、国内でもトップクラスであるということは間違いない。
むしろセリーヌお義姉様を超えるって時点で化け物……
ノックの音がした。
「失礼いたします」
家宰のシャルルが部屋に入ってくる。なにかの用事だろうか……と思ったけど私に話しかけることもなく、なにかを両手に抱えている。鏡、かな?
「なにをしているんです?」
「ベルナール様より通信でございます」
通信? なんだそりゃ?
「おっ、見えるぞ。おーい」
鏡に映っていたのは確かにベルナールお兄様だった。
「え? ……えっ?」
「ははは、驚いてる。やったな」
うっさい。当たり前に驚くわ。
ベルナールお兄様は鏡に映っていない誰かとハイタッチをした。私を驚かせたのがそんなに嬉しいか、チクショウ。
「え? なんです?」
手を振ってみると、ベルナールお兄様も手を振り返してくれた。こちらの様子も見えているのか……
「俺の魔法だ。遠話だと一方通行だから不便だろう? こういう遠隔で複数人が話せる魔法の研究をしていたんだ」
ベルナールお兄様が写っていた鏡にひょいっと上の方からにやけた顔が映り込んだ。
「君とは挨拶はまだだったよな。まぁ、そんなものもいらん気はするが」
明るく笑う。
確かに顔は舞踏会のときに見かけたなぁ。こんなふうに話す日がくるなんて思ってもなかったけど。
しかし、こんな便利な魔法の研究なんて……地獄属性だけじゃなくてまともな魔法も使えたんだなぁ、メンディ大司教。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん