海賊
「学園でも情報を集めている最中だが……まだよくわかっていないんだ」
ペラン子爵領が賊に襲われた。
賊?
ペラン子爵領は陸路ではペドレッティ伯爵領とアルテレサ伯爵領にしか接していない。まずそれぞれの家は動いていないだろう。うちの家の軍が私に内緒の作戦行動をしていたり、アルテレサ伯爵が動いていない限りは。
じゃあ本当にそのあたりにいる賊なのか?
これも考えづらい。港は要所だ。だからそれなりに守備兵も多めに置かれている。
「賊に襲われた」だけならともかく、直接関係のない学園で、しかも講義中に美少女が呼び出される……これはかなりの被害が出ているということだろう。
一応、各地の責任者から、そういった地域に被害を及ぼしそうな賊の情報は得ているし、目に余る場合は討伐とかもしているけど……港に被害を及ぼすほどの集団がいただろうか?
「申し訳ありません。私も早退して対応にあたろうと思いますがよろしいでしょうか」
「あぁ、それがいいだろうね。ペラン子爵領は、君の家にとっても大事な場所だろう」
教授の言葉に顔をあげる。
「大事な場所ですが……それ以上に親友の家がある場所ですから」
家に帰ったらすでにある程度の情報は集まっていた。
この港は、すでに敵によって占拠されている状態らしい。占領? マジか。
敵兵は無限にいるのではないかと思えるほどの多数……そんな兵力を擁する勢力なんていただろうか。
なんにせよ港は要地だ。ここに手を出したりなんかしたらどうなるかっていうのを見せつけなきゃいけない。
とりあえず先に帰宅したであろう美少女が帰郷しないようにうちで保護するため、寄宿舎に使者を出しておく。
言い方は悪いけど、彼女が今、帰っても役には立たないし、ペラン子爵も動きづらいだろう。
しばらくして、美少女と、この地に屋敷を構えて駐在員的な役割を果たしているロニー君がやってきた。
「……なるほど。サンディ・アンツですか」
ロニー君はうちよりも詳しい情報を持っていた。やるなぁ。
王国の最南端の島を本拠地とする海賊、サンディ・アンツ。国王派へ鞍替えし、シクス侯爵派のサヴィダン公爵とは敵対関係だった。
彼らは先日、サヴィダン鉄壁公と戦い、長期にわたる攻防戦の末、敗れた。一時はかなり占領したサヴィダン公爵の領土を取り戻されてしまい、結果としては得るものはなく、戦争による被害が出ただけで終わった状態である。
それが新たな領地を求めて海を超えてやってきたのだ。
「……宰相閣下の嫌がらせでしょうね。嫌がらせの矛先がペラン子爵に向くのは心外ですが」
美少女は悲しそうに俯いていた。
「お父様やお兄様は大丈夫かしら」
そうだよなぁ。美少女にとっての父親と兄……ペラン子爵とキャロルさんは心配だよなぁ。
クレティアン砦の攻防戦のときを思い出す。
ペラン子爵は自分が偉い人なのに「なにかしようか?」なんて声をかけてくる愉快なおっさんだった。今は亡きココ将軍と一緒に砦を盛り上げてくれたモチベーターだった。
モンソローのときを思い出す。
キャロルさんはココ将軍と最後まで一緒に逃げようとし、その死を悼んでいた。優しいお兄ちゃんだった。
思わず思い出し笑いをする。
「ペラン子爵のことを思い出しました。あの愉快な方はきっと大丈夫でしょう。きっと無茶を言ってキャロル様を困らせていますよ」
でも、おかしいこともある。
サンディ・アンツは国王派の大きな勢力だ。
その実力はサヴィダン鉄壁公と渡り合うほどである。
でも無限の兵力は持ってないぞ?
報告によれば海賊船が港に到着した瞬間に、どこからともなく現れた大量の兵士に一瞬で占拠されてしまったらしい。
その大量の兵を養うための兵糧は港の備蓄を使っているとして……海賊は港を占拠したあと、動きがないという報告もされている。
そんなことあるだろうか。
港は要地だ。一番に占領しなければならない。しかしそこを一瞬で陥落させるだけの兵力を持ち、その兵力を支えるだけの兵糧も港の備蓄があり……でも他の街に攻め込まない意味なんてあるだろうか。
「よくわかんないけど……行ってみなきゃいけないですね」
ちょうどセリーヌお義姉様の準備もできたようだ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん