雷撃
思えば……
塔でジャンさんから挨拶を受けたルイーズ殿下ちゃんは「はっ!?」みたいなリアクションだった。
あれ、あのときは「血がついてるのかなー?」とか「血生臭かったかなー?」とか「臭いのかなー?」とか思ってたけど、そういうことだったか。
フランスの詩人、スタンダールの言葉に「雷撃の恋」というものがある。
文字通り「一目で雷に打たれたように落ちる恋」のことだ。それだったかー……
エルザや美少女は見習え。私? 私はいいんだよ。
紅茶を一口いただく。
本当はこんな話、喜びの酒でも飲みながら聞きたいものだけど、さすがに王族の手前、そういうわけにもいかない。
「ルイーズ王女殿下が国王陛下に諫言なさったこと、そのために2年、塔に幽閉されたこと……これはただの2年間ではありません。かけがえのない青春時代の2年間です。ここまでご苦労をなさっておられるルイーズ王女殿下が幸せになれないなど、国民が許しません。胸を張ってくださいませ」
「胸を……」
ルイーズ殿下ちゃんは私を見て……自分を見て、それからしょんぼりした。
解せぬ。
退出することになって、案内してくれる年配の女性の家人さんに聞いてみる。
「ルイーズ王女殿下の恋について知ってました?」
「えぇ、なんとなくですが」
ふむ。
「このことはパスカル・シクス閣下には報告なさるのですか?」
「そうですねぇ」
困ったように微笑む。
「立場上、しなければならないでしょうね」
「では僭越ながら私からお話しさせていただきましょう。このあとクリステル様のお茶会にお呼ばれしておりまして」
……クリステルさんとパスカル・シクスに伝えるのは仕方ないとして、ジャンさんには伝わらないようにしなければいけない。
そして初々しいルイーズ殿下ちゃんと、なにも知らないジャンさんを観察しなければならない。
役得役得。
「ふぅん、そうだったの」
クリステルさんの反応はその一言だけだった。
私の経験した戦争話にはものすごい食いついてきたくせに、ルイーズ殿下ちゃんの恋バナにはまったく食いつかない……
ははーん、さては、君、女子力ないな?
そして、エルザと一緒に学園に帰るのであった。
「はぁー」
教室内でエルザが今日何度目かのため息をついた。
馬車の中でルイーズ殿下ちゃんの恋について話してからずっとこんな感じだ。
「どうしたんですか? エルザ様、お酒飲みますか?」
マリオンは酒でキャラクターを維持していくスタンスはやめておきなさい。お酒はエルザの前に一番最初に私のところに持ってきなさい。
なお、マリオンは卒業後、うちで雇うことが決まった。今後は私と一緒に行動してもらう予定だ……さすがに戦場には連れて行けないけど、十分だろう。
貴重な魔力持ちゲットだぜー!
「ねぇ、ジェルメーヌ様……エルザ様はどうしてしまったの?」
美少女が困ったように話しかけてくる。
「それですよ」
「それ?」
美少女の眉が八の字になる。
「私はあなたにお説教をしなければならないの!」
「お、お説教!?」
マリオンにもしなきゃいけないけど、まずはこっちだ。
美少女は美少女なのに恋バナがないのはおかしい! 不条理だ!
ガチのお説教をしなきゃ、この子は恋できないぞぉ!
「あとでね。休憩の時間に」
「え、えぇ、わかったわ」
……よく考えたら、なんでこの美少女はお説教されることを受け入れてるんだろう。
しかし、私は彼女にお説教をすることができなかった。
次の授業中に美少女が呼ばれてしまったからだ。
「ナタリー・ペラン様、学長がお呼びです」
「え……?」
不思議そうな顔で教室を出ていく……ナタリーって誰だ? あぁ、美少女のあだ名がナタリーだったっけ。
休憩中にお説教をすればいい……しかし、彼女は戻ってこなかった。
休憩中に教授に美少女のことをなにか知らないか確認する。
すぐに情報は集まった。
ペラン子爵領の港が賊に襲われた。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん