恋話
「ジェルメーヌ様は、恋をしたことがおありですか?」
「こい」
まさかここにきて池の鯉とは言わんよね? ヤッパッパーヤッパッパーイーシャンテン?
「はい、物語のような恋です」
あー、なるほど。物語のようなね。はいはい、なるほどなるほど。
「なるほど……ルイーズ王女殿下、少しお待ちいただけますか?」
いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
甘酸っぱいやつがネギ背負ってきたぞきたぞ!
見たか、エルザ! 見たか、美少女! 見たか、ロランス! 見たか、マリオン!
聖女は知らん! アメリーお義姉様とセリーヌお義姉様は……まぁ、あれは幸せそうだからいいとする!
君らに足りんのはこういうとこだぞ!
恋だぞ、恋! はぁー、甘酢っぺぇ。甘酢っぺぇよぉ……
まさかここにきて恋バナを、しかもルイーズ殿下ちゃんからだぞ!
囚われてた人が恋してるのに、みんななにやってるんだ!
みんな、伝説の木の下で告白千回しろ! 千本告白しろ!
私はその間、「告白相手びびってるー!」って野次飛ばすから!
というのを脳内だけで0.2〜3秒で考えた。歯向かう術はない、まさに閃光である。
「……なるほど。承りました」
私は脳内を1ミリたりとも漏らさなかったので、ルイーズ殿下ちゃんからものすごいキラッキラした目で見つめられてしまった。
「でも……」
しかしルイーズ殿下ちゃんの目の輝きもそこまでで、すぐに俯いてしまう。
「……私はずっと王女として教育を受けて参りました。結婚も政略結婚が当たり前だと思っておりました。それなのに、恋をしてよろしいのでしょうか」
……真面目だなぁ、ルイーズ殿下ちゃん。
しかし今まで受けてきた教育が、国王の暴虐以降すべて無駄になっちゃったんだもんなぁ。
結婚相手は自分が決めないのが当たり前。
結婚に恋愛感情などないのが当たり前。
愛より政略が重視されるのが当たり前。
しかし、そんな価値観は国王本人によって覆され、ルイーズ殿下ちゃんは塔に幽閉されることになった。
そして今、ぽんっと自由が与えられちゃったのだ。自分の意思以外のところで。
そりゃ悩むよなぁー。
ちらっと、私をこの部屋まで案内してくれたおばあちゃんの様子を窺う。
にっこりと微笑まれた。
こりゃ、ある程度はパスカル・シクスにも伝わってるかな。
まったく……クリステルさんも武勇伝だけじゃなくて、こういう甘酸っぱいやつを持ってきてほしい。
「……うーん、そうですね。少しだけ、私の話をさせていただきましょうか」
参考になるかなぁ。
「以前、塔でお目にかけたと思うのですが、私は顔に火傷を負っております。今も、それを隠すためにルイーズ王女殿下の御前でありながらも仮面で失礼しておりますわ」
「はい」
ルイーズ殿下ちゃんは私の顔のことなのにつらそうな顔をした。感受性豊かすぎない?
「私自身は貴族の端くれでございます。ルイーズ王女殿下とは比べ物にならないとはいえ、伯爵家の者でございます。しかしながら、私自身も家のために政略結婚するのであろうと思っておりました」
仮面を撫でる。
「ですが……まぁ、この顔の火傷により、ほぼ結婚できなくなったと言っても過言ではございません。そのことを父に伝えたところ『政略結婚の材料がなくなったのが悲しいのではなく、私が幸せになれないかもしれないのが悲しい』と、そう言ってくださいました。心から父のことを誇りに思っております」
うちのお父様は最高なんです。
「失礼ながら、私がルイーズ王女殿下に抱く思いは、うちの父が私に抱く思いに似ております……幸運にも、などとは間違っても申し上げることはできませんが、ルイーズ王女殿下は自由の立場になられました。であれば、恋を追うことも自由であると思われます。どうか、私にもその恋を応援させていただきますよう……」
頭を下げるとルイーズ殿下ちゃんが感極まったように「ジェルメーヌ様……!」などと名前を呼んできた。
「で、ぶっちゃけ誰なんです?」
「その……ジャン・ヤヒア子爵です」
……あー、確かに初対面のときにちょっと反応してたな?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん