封竜
「あー……その、なんだ……その節は申し訳なかった」
いきなりパスカル・シクスに謝られた。
どの節だ! なにをしたんだ、パスカル・シクス! ことと次第によっちゃ絶対許さないぞ! 絶対に! 許さないぞ!
「いや……俺の友人でもある、ユーリを俺の弟が……」
「あー」
なおも言葉を続けようとするパスカル・シクスに首を振る。
「それ以上仰られると、私も閣下を恨まざるを得なくなってしまいます。私の大事な兄は『復讐なんてやめよう』って本気で口に出すような人でしたから、ニコラ・シクスだけでお腹いっぱいということにしておきませんとユーリお兄様に悲しそうな顔をされてしまいますわ」
ユーリお兄様は、そういう人だったからなぁ……
「そう、だな……確かにそういうやつだっ……」
「そうです! 旦那様は一言多いのですどーん」
またクリステルさんに突き飛ばされた。仲いいな、君ら夫婦。
「……で、閣下は今日はなんの用があったのでしょうかな。私は娘の学友をお客人として迎えているのですが」
じろりとサリウさんがパスカル・シクスを睨め付ける。テーブルをこんこんと不機嫌そうに指で叩いている。いらいらしてるぅ!
家中の重鎮に睨まれたパスカル・シクスは突き飛ばされた体勢のまま苦笑を浮かべた。
「すまないな、叔父上。だが嫁がジェルメーヌ殿に話があるらしくてな」
嫁? クリステルさんが、私に? はて……?
「はじめまして、ジェルメーヌ様! ようやくお会いできましたね!」
……はじめてではないんですよ、クリステルさん。モンソローからの帰還の際にローランでちらっとお会いしてるんですよ。まぁ、クリステルさんはパスカル・シクスのことが心配でテンパってて私のことを覚えていなくても仕方ないが。
そのあとは例のニコラの行動で侯爵家を慌ただしく出ていくことになったので、正式に挨拶はしていない。
……なにより、私、そのときはまだ素顔だったんだよなぁ。別に火傷を後悔するわけじゃないけど、やっぱり雰囲気が変わるから認知されづらいのは実際のところだ。
「ご挨拶ははじめてでございますね。ジェルメーヌ・ペドレッティと申します」
「噂通り可愛いわね」
どんな噂を聞いてるんだ、みんな。本当に仮面しか見られないな。みんな狐が好きなんだろう、きっと。
「あまり時間をかけてもサリウ様に怒られてしまいますので、まずはこちらを……」
クリステルさんが目配せすると、彼女らが連れてきたらしい家人が私の前に進み出た。なにかの布で包まれた……1.5メートルを超えるほどの長さのものを抱えている。
「ルイーズ王女殿下をお救いする際に軍神様の武器が失われたとヤヒア子爵より伺いました」
クリステルさんは柔らかに微笑む。
「どうぞ、軍神様にお渡しください。私の実家に伝わるドラゴンを封印した剣の一振りですわ」
この国の初代国王となった英雄王のドラゴン討伐に3人の勇者が付き従っていたのは、この国の人間だったら誰でも知っている話だ。
1人はガスティン侯爵の先祖。
1人はシクス侯爵の先祖。
そしてもう1人がディガール侯爵の先祖……クリステルさんの実家だ。
初代ガスティン侯爵の知略と初代シクス侯爵の武勇と初代ディガール侯爵の忠義で英雄王を支えた話は、この国ではとてもポピュラーなお伽話である。
初代ディガール侯爵は双剣の剣士として有名だった人物で、その剣の一振りはクリステルさんからパスカル・シクスに贈られ、現在彼の愛剣として、その腰に下げられている。
そしてもう一振りは……ここにあったのかぁ。
正直に言って驚いた。
400年も前の遺物だし、もう失われてるのかと思っていた。
「結構使いやすいぞ。ベルナール殿に使ってもらえれば本望だろう」
なんか、なんていうか……すっげぇお土産くれたなぁ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん