闘気
私には戦いのことはよくわからない。
わからないけど強そうな人だった。
身長よりも大きな剣を肩に担いでいる……斬馬刀? いや、刀じゃないな。両刃だもんな。なんていう名前なんだろう。
とりあえずそういう感じの馬まっぷたつのやつを担いでいる。ベルセルクのあれ、という言い方が一番近いと思う。
ベルナールお兄様と、ドゥトゥルエルさんは睨み合ったままで……
「危ない!」
いきなりセリーヌお義姉様が私の前に立って、剣でなにかを薙ぎ払うような仕草を見せた。
ぎぅん、という重い音が響く。ドゥトゥルエルさんがなにかを投げて、それをセリーヌお義姉様が守ってくれたのかな?
床を見回すけど、なにかが投げられた様子もない。
セリーヌお義姉様は真剣な顔でドゥトゥルエルさんを睨み付けていた。
エモン団長も真面目な顔で武器を抜いたままルイーズ殿下ちゃんの前に出る。
……え、なんなの?
わからないのは私とルイーズ殿下ちゃんと……ジャンさんもわかってはいないようだ。武力90以上の反応かー?
「エモンさん、見えましたか?」
「見えん。しかしやるしかないだろう」
なんの話だろう? 嫌な予感だけはしている。
「ごめんなさい、ジェルメーヌさん」
いきなりセリーヌお義姉様に謝られた。許すけど。セリーヌお義姉様になら私の貯金を全部株で溶かされても許すけど。
「あの男と旦那様は……正直に申し上げて私とはレベルが違います。今、2人とも……いわば闘気というものだけで闘っている状態です」
闘気……え、なんだそれ。
「先ほどジェルメーヌさんに闘気の刃が投げつけられました。先ほどはなんとか対応できましたが偶然です。もし私が倒れたら……逃げてくださいね」
さっきの重い音、それ? そんなのあり?
このクラスになると、武器は必要ないってことか……
「ルイーズ王女殿下も、万が一の際は子爵についてお逃げください」
エモン団長の顔も真っ青になっている。
ジャンさんはわからないなりに剣を抜いてルイーズ殿下ちゃんを背中に庇い、ルイーズ殿下ちゃんは震えながらジャンさんに抱きついた。
それでもベルナールお兄様は、そのままだった。
「……貴様、今、俺の妹を狙ったな」
質問でもない、ただの確認にドゥトゥルエルさんはちらりとも視線を逸さなかった。
「ベルナール殿の妹?」
あぁ、ドゥトゥルエルさんも舞踏会にはいたし、ベルナールお兄様と顔見知りじゃない方がおかしいか。
「おや……仮面と聞いていたが、なるほど、貴殿の妹だったか。道理でブサイクなわけだ」
「よし、殺す」
ベルナールお兄様の殺す発言の瞬間、ドゥトゥルエルさんの頬にぴっと傷が入った。あれが闘気? こわ。
「あー、私が傷痕でちょっと見れないお顔になっちゃったのは事実なので、それはいいんですけどねー。ドゥトゥルエル様、ちょっと質問いいですか?」
「おや、なにかな?」
口は動いているけど、視線はベルナールお兄様に向けたままか。
「なんで、ここにこれたんです? よく気づきましたね」
「胸騒ぎがしてね」
はぁー、なんだこの許褚。
三国志の英雄、曹操さんの親衛隊長の許褚は非番の日に胸騒ぎがして、自宅から曹操さんのところに駆けつけたら、曹操さんを狙う暗殺者と鉢合わせて無事殺害、とかいう意味不明な逸話が残っている人だ。
まぁ、いくさ人の勘というのはそういうものかもしれない。
「君は怖くないのかな?」
ドゥトゥルエルさんがはじめて視線を逸らして私を見た。
ベルナールお兄様は特に動くことなく、そんなドゥトゥルエルさんを見ていた。
「いやー、剣を振るってどっちが強いー。勝ちましたー負けましたーっていうのは見てわかるんですけどね。闘気の刃とかいわれてもぴんとこなさすぎて逆に怖くありませんね」
「なるほど。大公閣下に聞いた通り、いい女だね、君は。捕まえて大公閣下への土産とするとしよう」
あぁ、そういえばデュマ大公が推薦した人だったね、この人。
「ベルナールお兄様に勝ってから言ってくださいよ、そういう妄想は」
「そうだな。埒があかん。決着をつけようか」
ベルナールお兄様がじりっと前に進んだ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん