王女
あー、ドアがベルナールお兄様のパンチで吹っ飛んで……
「えい」
ベルナールお兄様の顔面を平手でぺちっと叩いた。
「なにをする。お前に肉球があったら気持ちよくなってしまうじゃないか」
ねぇわ、そんなもん。
「狐だしなぁ。狐って肉球あるのかな?」
今、仮面外してるからね。
「ベルナールお兄様、私が先ほどノックして、それに応えようとした人が近づいてたところにドアを吹っ飛ばしたら危険だ、とかそういうのは考えました?」
しばらくベルナールお兄様は首を傾げて考えた。
「すまん!」
「謝るのは私じゃないですからね」
部屋の中を見ると、とても豪華な調度品と、部屋の真ん中で腰を抜かしている少女がいた。ごめんごめん。
部屋は窓がない以外はごく普通の豪奢な部屋だった。
とても柔らかそうなベッドや、年単位で暇つぶしができそうなたくさんの本が集められた本棚。部屋の奥には体を拭くスペースもありそうだ。お風呂はない……というか、この国にはお風呂の文化はないから当たり前だ。
まるで「中の人が一生、外に出なくても暮らせそうな部屋」だ。
「……ルイーズ殿下、ですね?」
その部屋にいる少女には、学園のころの面影があるような、ないような……
正直、私がこの体に転生前に会っただけなので……しかも親しかったわけじゃないので本人か断定できない。でもゲームのパッケージイラストの面影はあった気がした。
「あ、あなたは……?」
学園の同窓だったとはいえ、田舎の伯爵令嬢のことなんか覚えてるかなぁ?
「学園で同窓でした、ジェルメーヌ・ペドレッティと申します……えっと、覚えておられますでしょうか」
「えっ、ジェルメーヌ様?」
ルイーズ殿下ちゃんは目を見開く。
「え、ジェルメーヌ様には、そのようなお顔の傷は……」
そういえばそうだった。今、仮面を外してる上に火傷の痕晒してるんだった。
「というか覚えていてくださったんですね。ありがとうございます。色々あって火傷を負ってしまいまして……まぁ、その話はあまりおもしろくありませんから置いておきましょう」
今さらだがルイーズ殿下ちゃんにカテーシーをしておく。
「ルイーズ王女殿下、お救いに参りました。この塔より脱出いたしましょう」
ルイーズ殿下ちゃんは私だってことを気づいたときよりも目を丸くした。
いや、ドアをぶっ飛ばして救出もなんもないか。そりゃそうだね。
「私は……塔から出てよいのでしょうか」
思わず首を傾げる。なんで出ちゃいけないんだろうか。
「私は国王陛下の親族でありながら、陛下の暴虐をお止めすることができませんでした。私の罪は重いのではないでしょうか」
えっ、殿下ちゃん考えすぎ。この塔の下の階の現在の死体の山を止めることができなかったのは私の責任っていうようなものじゃない! ……あ、いや、塔の死体の責任はある程度は私だな。世界一ごめんね!
「ルイーズ王女殿下、そのお考えはとても尊いものです。であれば、私にはそのお考えを前向きに活かすことができる場所へご案内することができます。ルイーズ王女殿下が国王陛下に諫言したという事実、そしてそのために捕らえられたということ……それを勇者によって救われたということ」
言葉を切る。ルイーズ殿下ちゃんはまじめそうだし、こういうの嫌いかもしれない。
「このような言い方は失礼であると自覚した上で申し上げますが……ルイーズ王女殿下には、貴女の自己評価に関わらず、高い政治的価値があります。貴女の言葉で戦乱を収束させることができる可能性がございます。そして私には、それを活かすことのできる場所にご案内ができます」
前世は擦れ切った大人のOLだった私には、汚れなき乙女の祈りに価値は見出せなかった。だったら外に出て活動してほしい。
「……わかりました。ジェルメーヌ様の案内をお受けしましょう。よろしくお願いいたします」
そういうルイーズ殿下ちゃんのカテーシーは私のものなんか比較にならないくらい洗練されていた。
これが王女かー。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん