登塔
「ぐむぅ」
その兵士はベルナールお兄様の腹パン一発で気絶した。
……
……気絶してるんだよね? お腹が見たことない形に陥没してるけど、気絶してるだけだよね?
「やるなぁ」
エモン団長が呟いた。
聖女は近くの村で待機している。
彼女からはなにか変化があれば遠話の魔法で連絡がくることになっている。
そして私達はコスプレして、導きの塔に潜入しようとしていた。
メンディ大司教は国王軍の重鎮だっただけあって、国王軍の鎧を提供してもらったのである。
「いい鎧着てますね」
「金持ってるからな」
世知辛い話だった。
私達と国王軍の一般的な兵士が戦ったら、装備の差で負けるかもしれないなぁ……
それを補うのが作戦……とはいうけど、積極的に不利な戦いをしたいわけでもない。
「ちなみに武具ってどこの都市で作られてるんですかね? その都市を占領できれば、国王軍への武具供給も切れますし、こっちの武具の質も上がりますし、いいことだと思うんですが」
私の言葉にジャンさんが「ふむ」みたいな顔をしていた。まぁ、できるんだったら考えといてほしいところだ。
「立派な建物ですけど、なんでこんなのがあるんですかね? エモン卿、なにかご存知ですか?」
ベルナールお兄様が「気絶」させた兵士を物陰に捨ててきたエモン団長に聞いてみると、「お? おぉ」みたいな感じで私に顔を向けた。
「侯爵とか公爵とか王族とか、そういった『偉い人間』を世間から隠して監禁する場所らしいな。世間から隠して監禁する場所だから、この塔の存在も公開されていない。それこそ国王の側近しか知らないことだ……俺も知らなかったしな」
ふぅん、なるほど。
……ところでさっきエモン団長が捨ててきた兵士を縛らずに捨ててきちゃったのはエモン団長の不手際とかであって、決して腹パン一発で召されたわけじゃないよね?
あはは、エモン団長のドジっ子さぁん……だよね?
「隠された場所だから、そこまで警備は固くない……と、大司教は言っていたよ」
「……簡単な仕事になりそうだな。つまらん」
エモン団長の言葉にベルナールお兄様が鼻を鳴らす。あなたが満足する仕事にお付き合いしてたら命がいくつあっても足りないって知ってます?
でも「偉い人専用設備」なんだったら、食事一つとってもたくさんスタッフを用意しなきゃいけないだろうし、食事だけじゃないだろうし、兵士以外の人員は多そうだ。
ルイーズ殿下ちゃん救出後はわざと騒ぎを起こして、混乱に乗じて脱出するのも一つの手段かもしれない。まぁ、騒ぎを起こさずに静かに脱出できるのならそれが一番いいけど。
「ルイーズ殿下は……最上階ですね。兵士が何人いるのかはわかりませんが……」
「しっ」
ベルナールお兄様が私の口を抑えるのと同時に上の階から声が聞こえてきた。
「どうしたー? そろそろ交代の時間かー?」
うん、警戒自体もそこまで強くないようだ。無警戒のところにこんな集団がきたことを想像すると……うん、兵士は泣いていい。
セリーヌお義姉様がベルナールお兄様に目で合図を送ってから前に出る。
「あぁ、ちょうどよかったです。手伝ってください」
「おぉ?」
セリーヌお義姉様が二階から降りてこようとする兵士の方に小走りで近づき……
ぴゅっ。
片手で口を押さえながら、もう片手のナイフを耳に突き立てた。
あー、これは脳に届いてますねー。一発ですねー。
うーん、この作戦ってこんな皆殺しプランだったっけ……
そのまま死んだ兵士を担いで一階の適当な部屋に捨てに行くセリーヌお義姉様を見て……
はっと気づいて、エモン団長の方を見た。
かちっ。
エモン団長の方からスイッチが入った音が聞こえた。
あー、もう止められないぞ。私は知らないからね。知らないぞぉー。
ジャンさんには目を逸らされた。
本当に止められなかった。
インペリアルクロスで私を守る意味あった?
あとさ、わざわざ国王軍の鎧にコスプレする意味もないよね、これ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん