交渉
マリウス・シュヴァリエ。
わぁー、でっかい人だなぁー。
一目見た感想である。
ベルナールお兄様が190センチくらいだったが、それよりも背が高いんじゃなかろうか。
巨人と間違えられたことありません? そんな感じの人。
原作のゲームでは武将として登場するわけではないが、武力は少なく見積もっても80はありそう。90あるかどうかはわからない。
待たせたことを詫びるでもなくドスドスと歩いて椅子に座る。
「なぜ頭を下げた」
「いえ、突然のことにも関わらず面会していただけましたので……」
マリウスは私の言葉を「そうじゃない」というように手を振って止める。椅子に座りながらマリウスの方を見る。
「館に入る前に北に向けて頭を下げていただろう。あれはなぜだ」
したっけ、そんなこと? ……あぁ、したっけ。
っていうか、その時点で私達の行動全部チェックしてたんだな、やっぱり。待たせたのも私達の様子を見るためか。まぁ、そうだろうと思ってたけど。別に怒りなど湧かない。そんなもんだろうし。
「あれはあなたにではありませんわ」
微笑む。
「あれはあなた達のご先祖、200年前のシュヴァリエの方々に対して、です。『ようこそこの地へいらっしゃいました。ゆっくりしていってくださいね』と。北の果ての地から必死でここまで辿り着いたのに誰からも歓迎されないのは寂しいですから」
課長は歓迎するどころかおっぱい揉んできたから敵。
マリウスはふん、と鼻を鳴らした。
「……オリーブがほしいと言っていたな?」
あぁ、私達がここに来た用件もあの青年がマリウスに伝えてくれていたようだ。敵意はあってもやることはやってくれているのはありがたい。
「オリーブは我らの先祖が命をかけてこの地に運んだものだ。粗末には扱うな」
話が早い。早漏すぎる……今のはさすがに下品だった。聞かなかったことにしてほしい。
「用件はもう一つあります。あなた達に伯爵家の臣下になっていただきたい」
マリウスの額に青筋が浮かんだ。こっわ。
「……貴様もかつて我らを迫害し攻め込んできた当主と同じか」
「あー、違います違います。そんな物騒な話ではないのですよ」
こっわ。
「ここに攻め込んだという、かの伯爵は『このセリーヌ湖周辺を不法に占拠している』と攻め込んだそうですね。一面でいえばそれは正しいことです。この周辺は紛れもなく伯爵家領なのですから……落ち着いて聞いてくださいね」
怒りを剥き出しにしているマリウスを宥めながら話を聞いてもらう。
「ですから法によって、この地をあなた達のものにすればいい。手っ取り早いのは形だけ伯爵家の臣下になってもらって、ここをあなた達の領土として譲り渡すことです。実際に、すでにこの場所はあなた達が治めているのですからあとは法の根拠だけがあればいいのです」
マリウスは黙って聞いてくれている。
「伯爵家はあなた達に義務を負わせません。今まで通り暮らしていただいて結構です。本日、私は父、ペドレッティ伯爵よりシュヴァリエ家に対して全権を任されてここにきました。あなた達を男爵として推挙することができます。この湖畔を正当にあなた達の領地と認めることができます」
男爵ですよ、男爵。シーランド公国だったら30ユーロ程度で買えちゃうやつ。
マリウスの額から青筋は消えていた。一応理解はしてもらえたらしい。
「話はわかった。しかし形の上だけでもお前達の部下になるなどお断りだ」
マリウスは立ち上がる。理解はしてもらえたが歴史的な嫌悪感はそう簡単には消えないということだろう。
「帰れ」
「子供達に誇れますか?」
部屋から出ていこうとするマリウスに声をかける。
「……なんだと?」
「私はあなたにひどいことを申し上げた。『積年の仇敵の部下になれ』……そういうことですからね。でも先ほども申し上げましたがこの地が不法に占拠されているというのは一面では正しいのです」
座ったままマリウスを見上げる。でけぇな、この人。痛ぇな、首。
「子供達に、孫達に……あなたの子孫にこの地を不法に治めていることを誇ることができますか? 今、私はあなたに法的根拠を差し上げることができる。これを利用していただきたいのです」
顔を歪めて、マリウスはドスドスと戻ってきて、再び着席した。
大きくため息をつく。
「なぜ俺達にこだわる。お前はオリーブがほしいだけだろう」
頭の中で少し考えをまとめる。
「私個人はあなた方を知りません。でも……私は私の兄のことは信頼しています」
ベルナールお兄様は、そう、シュヴァリエ一族を認めていた。
「2年前の亜人の襲撃であなた方と共に戦うことができ、兄はそれを誇らしく思っているようでした。そのあなた方に、できるだけ報いたい」
「あぁ……」
ベルナールお兄様のことを話すと、マリウスの顔が少し緩んだ。
「あの方はあの当時まだ20にもなっておられなかったが、すでに完成した……軍神だった。あの方と並んで戦えたことは俺にとっても誇りだ……ペドレッティ家にもこのような人がいたのかと驚いたものだ」
あぁ、この人も武人堅気なんだな。でも軍神? そこまで? ……まぁ、武力100なんて軍神と呼ばれて然るべきかもしれない。
「話はわかった。しかし俺の一存で決められることではない。3日待て」
「待ちましょう。その間、泊めてくださいますか?」
私の言葉にマリウスはうっすら笑う。
「客間を用意させよう」
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科