同会
「ウェーイ! ちっすちっすー! きつねちゃーん! にゃー!」
聖女は今日もテンションが高かった。
……にゃー? 狐……にゃー?
聖女とエモン団長を……それでも公式な訪問ではないので2人だけで、うちの屋敷にきたのを玄関で出迎えていた。
聖女は今日もテンション……というか血圧が高そう。脳出血とかしないか心配だ。
後ろから保護者のようにエモン団長が頭を下げた。「のように」っていうかまんま保護者だよね。
「そういえばさぁ、前にジェっちゃん、タピとか言ってたじゃない?」
……あー、確かに言ったね。
聖女が私以外の転生者じゃないかと思ってカマをかけてみたときだ。ギャルの転生者だったら「タピる?」と言えばなんらかの反応が返ってくると思ったけど、特に反応なかったから聖女は転生者じゃないという結論を出した……んだけど、早計だったかな?
「あれでしょ? タピって、500年前の画家のフランソワ・タピさんでしょ?」
……誰だ?
「あの『向日葵の道』を描いた画家さんっしょー?」
……誰だ?
「あーしも知らない画家さんだったけど、調べてみたら結構いい絵描いてるねー」
……誰だ?
「気に入っちゃって、あーしの部屋に飾るためにいくつか買っちゃった」
誰だ? っていうか買ったの? さすがに聖女は金持ってるなぁ。
「やっぱ、ジェっちゃん賢いねー!」
聖女がニコニコと笑っている。お、おう……
「そうです。私の義妹はとても賢いのです」
セリーヌお義姉様がドヤ顔をして、ベルナールお兄様が頷いていた。
……違うぞぉ?
「……とりあえず寒いでしょうから、中にどうぞ」
招き入れると聖女は「ウェーイ! あんがとねー!」といい、エモン団長は無言で頭を下げ、ベルナールお兄様は「よろしく頼む」とでもいうようにエモン団長に軽く手を上げ、セリーヌお義姉様は「うぇーい」と言いながら頷いた。
だから「うぇーい」は肯定じゃないからね?
「やっと揃いましたね」
応接間に招き入れると、先に応接間にいた人物が声をかけてきた。
応接間にはお父様とアメリーお義姉様……そして、ジャン・ヤヒア子爵。
パスカル・シクスは自らルイーズ殿下ちゃん救出作戦に参加することにこだわったが、やはり彼は一勢力の長である。
参加は現実的ではない。というより、シクス侯爵家のパスカル・シクス本人以外はみんな反対した。まぁ、みんなと言っても作戦自体が基本的には極秘作戦なので、作戦の存在自体を知っている人は限られるのだけど。
その中でも特に声を上げて反対したのが側近のジャン・ヤヒア子爵であり、「なぜパスカル・シクス本人が動いてはいけないのか」ということを懇切丁寧に3日間かけて説明したらしい。パスカル・シクスは目からハイライトが消えるまでずっと話を聞かされ続けたそうだ。
その愛のある説得の結果、パスカル・シクスは自らの参加を諦めたのだけど、そのかわりに誰かを参加させたい……ということで代理に選ばれたのがジャンさんだった。
ジャンさんは知力、政治力、武力、統率力という魔力以外の能力値がすべて80を超えている、高レベルでバランスの取れている人物である。
作戦中の不測の事態への対応が期待できる、めちゃめちゃにありがたい人材だった。
「聖女猊下、お初にお目にかかります。ジャン・ヤヒアと申します」
どたっどたっ……
「ジャンちゃんねー? ウェーイ! きょーどーさくせんよろしくねー! ……ところでなにやってんの?」
どたっどたっ……
「お兄様! お兄様! 聖女猊下の前ですから、失礼ですから、お兄様!」
「ははは、アメリー君、いいじゃないか」
なぜか焦っているアメリーお義姉様とおおらかなお父様。
「うーん……別に失礼とかはないんだけどさー」
聖女は首を傾げた。
「なんなの?」
ジャンさんはジュリアンを背中に乗せて四つん這いで走り回っていた。ジャンさんにとってもジュリアンは甥っ子だしね。
どたっどたっ……
「きゃっきゃっ」
ジュリアン大喜びだ。
「あの可愛い子は、私の甥っ子でジュリアンっていうんですよ」
「あー……うん。甥っ子ちゃんの名前を聞いたつもりじゃなかったんだけどなぁ」
私の言葉に聖女はなぜか困ったように笑った。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん