現下
ルイーズ殿下ちゃん救出作戦の決行は冬ということに決まった。
ジェルミ教団がシクス侯爵家の勢力に加わることが表に出るまでに間に、メンディ大司教なりにやっておかないといけないことも多いはずだし、今、すぐにということは難しいだろう。
冬は寒い分、着込むから……顔を隠してても不自然ではないという理由もある。私の場合は特に狐面も隠さなきゃいけないし。仮面外していってもいいけど、そしたら火傷の痕で、それはそれで目立ちそうだなぁ。
やっぱり私は行かないほうがいいんじゃない?
ルイーズ殿下ちゃんが2年近く幽閉された状態だから、心のケアをするために同年代の私もついていく、とかいう理屈かな?
でも同年代っていうだけだったら聖女で事足りるし……あー、でも聖女が参加するとなると、私が居残りしたら外聞が悪いか。
パスカル・シクスに遠話の魔法でジェルミ教団の寝返りのことを報告したが、思ったより驚かなかった。
「メンディ大司教はなぁ、あれで憎めないキャラだからずるいよなぁー」とのこと。
私自身はメンディさん本人とは話したことはないんだよなぁ。顔は……舞踏会で見たから知ってるけど。すげーにやけてたなぁ。
それよりもパスカル・シクスはルイーズ殿下ちゃん救出に食いついてきた。
「俺も参加する!」
やかましいわ、侯爵。
武力98とかいう、この国でも第3位の武力を誇る彼が一緒に来るのなら、ありがたいのはありがたいけど、一勢力の長にそんなことをさせるわけにはいかない。
「ふぅむ」
「俺は役に立つぞ! だから一緒に作戦、なっ?」
「なっ?」じゃないわ。どんだけカロリー消費したいというのか。
「わかりました。ジャン・ヤヒア子爵の許可が取れたら一緒に来ていいですよ」
「ジェルメーヌ嬢、ひどいことを言うなぁ……」
ジャンさんにガチで怒られてしまえ。
「じゃあ、また冬にねー!」
聖女とエモン団長はそう言って教団領に帰っていった。遊びの約束感覚で言うのはやめてほしいなぁ。
世界の情勢は刻々と動いていた。
ついに念願の海を手に入れたガスティン侯爵は海軍を組織し始めたらしい。
しかし今まで海を持っておらず、ノウハウもまったくない。その上、ジェルミ教団からは異端と認定されてしまい、ノウハウを持った人間を招聘するのもなかなか難しい状況のようだ。
ジェルミ教団の神聖騎士団には陸軍のトップとしてエモン団長と、海軍のトップとしてクレールという人物がいる。クレール提督はなんと女性だ。今年で62歳になるおばあさん提督である。原作ゲーム、王冠の野望の中に登場する女性武将としては最高齢だが、武力は79とまずまずの数字であり、女性としてはセリーヌお義姉様に次いで国内第2位だ。というか、武将として登場する中にはこの2人以外に武力高い女性はいないのだけど。ロランスも武将としては登場しないしね。
ガスティン侯爵は、このクレール提督を引き抜こうとして手ひどく断られたらしい。
ガスティン侯爵家単独では造船の技術もないだろうし、港だけあっても、という状態になっているようだ。
メンディ大司教にとっても苦しい状況は続いている。
王家からはすでに寝返りについて疑いの目を向けられているのだろう、ガスティン侯爵家との小競り合いが続いているが、それに対しての援軍がなかなか届かないようだ。
シクス侯爵も現時点ですぐに援軍を出すわけにはいかないし、しばらくの間は単独で守るしかない。
そんな小競り合いの中でエモン団長がガスティン侯爵家のブサイク、リシャールとロランスの父親のカンデラ将軍の2人を相手に余裕の勝利をしたらしいとかいう、化け物じみたエピソードも聞いた。負けたリシャールとカンデラ将軍はなんとか逃げ切ったらしいけど。
シクス侯爵家はほぼ動きはなかった。
パスカル・シクスはジャン・ヤヒア子爵にすげー怒られたんだと思うし、そもそも敗戦処理はまだ終わっていないだろう。
サヴィダン鉄壁公と海賊、サンディ・アンツは、こちらも小競り合いを続けていた。
不思議なことにサンディ・アンツと戦端を開いている、その後ろから国王軍がサヴィダン公爵家領に攻め込むことはなかった。
だから現状ではシクス侯爵からの援軍もあり、サヴィダン公爵がやや優位に戦闘を進めているらしい。
冬がきた。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん