面会
「……」
「……」
誰も口を開かない。なんだこの空間。
「えーっと、私にご用と伺ったのですが……?」
私も、そんなに暇じゃないんよ。貴族だから! 貴族だから忙しいの!
私の言葉に男の方が息を吸った。
「面会いただき感謝する」
その瞬間だった。
「ジェルメーヌさん、離れて!」
セリーヌお義姉様が立ち上がり私の服の襟首を掴んで後ろに引き倒した。
「声を聞いてわかりました! こいつは……」
襟首を持ってはいけません。私は首が締まって……締ま……きゅう。
「ジェルメーヌ、いいかい? これだけは覚えておくんだよ」
とても明るく暖かい場所でおばあちゃんの声がする。会ったことはないけどなぜかおばあちゃんだとわかった。
「本当に大事なことだからね。絶対に忘れないでほしいんだ」
うん、なぁに、おばあちゃん?
「お鍋にリンゴの皮を入れて煮込むことで、お鍋の黒ずみが落ちるんだよ」
わぁー、本当に? ちっとも役に立たない情報ありがとう、おばあちゃん!
「どういたしまして」
それで、おばあちゃん、このお客さんにはどう対応したらいいの?
「それはおばあちゃんにはわからないわぁー」
……うわぁー、本当に役に立たないやつかー。
「……メーヌさん! ジェルメーヌさん、しっかりしてください!」
はっと気がついた。
なにか私の会ったこともないおばあちゃんに意味もなくヘイトがたまった気がする。夢でも見ていたのかなぁ……
数秒ほど記憶が抜け落ちている気がした。
セリーヌお義姉様が私を見つめていた。美人さんに見つめられると照れちゃう。
男の方はフードを脱いで、驚いたようにこちらを見ていた。あれ、この人……?
「この男が、ジェルメーヌさんに危害を加えようとして……!」
「え!? いや、そんなんしてな……!」
あー、そうかそうか。こいつが悪いのか!
「俺は普通にはじめましての挨拶をだな……」
自分で首をぺとぺと触ってみる。なくなってない。よかった。
「はじめましてではないですよ。お話をするのははじめてかもしれませんけど、お会いしたことはあります。2年前の王家主催の舞踏会で……そうですよね、エモン団長」
縦にも横にも大柄な偉丈夫、ジェルミ教団が誇る神聖騎士団のエモン団長は「そうだっけ?」と首を傾げた。
ジェルミ教団、神聖騎士団……
メンディ大司教が教団の実質的なトップではあるが、その彼に忠誠を誓う軍事組織であり、一度はガスティン侯爵本人が率いた軍を……邪悪な召喚魔法を駆使したとはいえ、退けた、ベルナールお兄様曰く「この国でも屈指の実戦経験が豊富な強い軍」である。
エモン団長はその神聖騎士団のトップに君臨する存在であり、セリーヌお義姉様と一騎討ちで互角の実力を持っている……というか、エモン団長の方が武力高い。
「では、改めて挨拶させてもらう。神聖騎士団団長のエモンだ」
はぁ、大物が巡礼してきたこと。っていうか柔らかい柔らかい!
セリーヌお義姉様は私を守ることを第一に考えているのだろうけど、私を抱きしめていた。柔らかいし、めっちゃいい匂いがする!
「……今は敵対するつもりはない。それに君らは兵を動かして俺達を捕縛できる立場だろう」
そうだよなぁ。セリーヌお義姉様にとっては一度は自分と互角に戦った相手だもんなぁ。そりゃ警戒するのもわからなくはない。
「あははははははは!」
少しだけ緊張が高まった室内に笑い声が響いた。
エモン団長と違い、まだフードを目深にかぶっていた女だ。
「エモンちゃーん、嫌われちゃってるぅー。ふぅー!」
エモンちゃ……え、なに?
ふぅー……え、なに?
「ここはあーしの出番っしょー。うぇーい」
あーし……え、なに?
うぇー……え、なに?
女はフードを脱ぐ。私と同年代と思われる女の子だった。
「どうもー、ジェルミ教団の聖女、ベアトリス・ロビネでーっす! ぱねぇっしょー!?」
えっ?
えっ?
えっ?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん