客人
「うーん」
巡礼者が私の客……?
思い当たることがなにもなさすぎて怖い。
「学園のお友達とかではないの?」
悩んでいるとセリーヌお義姉様が聞いてきた。学園のお友達……?
「ジェルミ教団から学園に来てた男の子には熱烈に殴られましたけど、あれって愛情表現だったんでしょうか」
なお、その男の子はすでにお亡くなりになっています。
セリーヌお義姉様は私の言葉を吟味するように考えて……
「あるいは……?」
あるいはじゃねーわ。
私は寄宿舎に私を呼びにきたセリーヌお義姉様と一緒に馬車で家に帰っていた。
巡礼者? ……いや、ほんとにまったく思い当たるところがない。
「男と女の2人組だけど、顔はフードで隠していてわからなかったわ……本当に思い当たるところはない?」
男と女ー?
頭の中に思い浮かんだのは獣人の国のボス親子だったけど、あれは絶対フードとかかぶっていられる性格じゃない。私に会いにくる理由もないし、彼らは多分、巡礼もしない。
「顔もわからない、怪しい人間だから……会いたくないのなら追い返してあげるけど、どうする?」
「いえ……領民と会うのも貴族の役割だとは思いますから、会うのは会いますけど……」
私の言葉にセリーヌお義姉様が心配そうな顔をする。
「……私もその2人組を影から見たのだけど、男のほうは、かなり『やる』わ。旦那様も男を警戒して家に残ってる」
「事情が変わった!」と脳内髭男爵が叫んだ。あっ、今気づいたけど、うちの家って髭男爵よりも爵位上? やったー! ……どうでもよく現実逃避してしまった。
え? なに?
戦乙女と軍神が揃って「こいつはやる」と保証してる人間が私の客なの? 怖!
そんな武力高い系の知り合いいたかなぁ? ロランスは武力高いけど女だし、その親のカンデラ将軍とは直接の面識はないし、小者は武力高いけど、この前、死んだはずだし……
……と、ここまで考えて脳内に電流が走ったような感覚があった。
ま、まさか……
セリーヌお義姉様の顔を見つめてしまう。
あの小者は夕食時にベルナールお兄様から死亡が報告されただけだ。セリーヌお義姉様は見ているだろうけど、私が死体を確認したわけじゃない。
……もしかしたら、2人が私を騙そうと……いや、でも、なんのために?
「まさかニコラが生き返って……」
「あ、あいつだったらちゃんと殺したわよ。死亡確認してから念のために50回くらいとどめを刺した後、首を刎ねたわ」
とどめ刺しすぎ刺しすぎ。そんな朗らかに報告しないでほしい。
「しかも巡礼者でしょう? 私の客というんなら本物の巡礼者じゃなくてコスプレなんでしょうけど」
「心配だったら、一緒に会ってあげるわよ」
それはありがたいなぁ。セリーヌお義姉様がいたら大体の問題は片付く。曹操に許褚、孫権に周泰くらいの安心感。
「ただいま戻りました」
「おう、戻ったか」
玄関を入るとすぐ横にベルナールお兄様がいた。
「2人は応接室にいる」
えっ、見張っておかなかったの? 驚いた顔をベルナールお兄様に向ける。
「気配くらいここからでもわかる」
相変わらず人間捨ててんなー。
「女は部屋の中をうろついているが、男は黙って座ったままだな」
それもこっからわかるの? 人間じゃなかったか……
「お茶とかは出してあります?」
「うん」
頷いた後、ベルナールお兄様はセリーヌお義姉様に顔を向けた。
「セリーヌがジェルメーヌと一緒にいてくれるのか?」
「はい、旦那様」
ベルナールお兄様は「なら安心だなー」と呟きながらどっかにいってしまった。
「えっ、それだけ?」
「……旦那様は自由な方ですから」
セリーヌお義姉様、それ、フォローになってないからね。
応接室をノックすると「はい」という声が返ってきた。
部屋の中には問題の2人と、それを接待していたらしいメイドのルネがいる。ルネからは「タスケテー!」という強い気持ちを感じた。
「お待たせいたしました。私がジェルメーヌ・ペドレッティですわ」
私の声に女の方が……フードをかぶったままなので顔は見えないが、こっちを向いて「かわよっ!」と言い、男が肘で女の脇に一発入れていた。
……なに、この人ら。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん