炎上
あぁー、なんでこんなになるまで気づかなかったかなぁ?
寝てたからか。そうか。
1秒もかからずに自己完結してしまった。やるじゃん、私。
それにしてもなぁ……
ため息をついたら幸せが逃げるとかいうけど、火も逃げていってくれないものか。
そうしたら1億回はため息つくのに。
まぁ、現実逃避してても仕方がない。今は火から逃避しないと。あっ、今、私、とてもうまいことを言いました。
どうやって逃げればいいんだろう。
窓を見る。ゆうて二階だ。落ちてもケガくらいですむかもしれない。でもケガしたら痛いものなぁ。
そのとき執務室のドアが大きな音を立てて開かれた。
「お前、なにをやってるんだ!」
「あなた、なにをやってるんですか!」
アドリアンだった。早く逃げればいいのに、本当になにをやってるんだ、この人!
「お前が逃げてないのが窓から見えたから助けにきたんだろうが!」
「わざわざ危険な場所に飛び込んでくれるなんてアホじゃないんですか!? 本当にありがとうございます!」
彼は全身水浸しだった。いや、水をかぶって火の中に飛び込んでくれたのかもしれない。
「アホって言われた……でも礼も言われた」と混乱しているアドリアンに声をかけようとして、あくびが出たので口元を手で隠す。
「お前なぁ……」
「今起きたばかりでしたから。それでアドリアンさんがここにいるということは一階でも逃げる道はあるということですか?」
私の質問にアドリアンは頷く。
「火の周りも早いから、さっさと逃げるぞ」
まぁ、窓から飛び降りるのも考えたけど、私の運動センスからいって絶対にケガするのでできれば落ちたくはなかった。歩いて避難できるのならそっちがいい。
「これを羽織って!」
アドリアンが着ていた外套を脱いで手渡してきた。湿ってる。まぁ、多少でも火除けにはなるのかもしれないけど……いや、なるかなぁ? まぁ、感謝して受け取っておこう。
私が外套を羽織るとアドリアンは外を一瞬見た。
「お姫さんに大変失礼するけど、我慢しろよ」
脇に抱えられた。
もっとさぁ、もっと、なんていうか……別の持ち方ない? いや、文句を言うわけじゃなくて、もっとさぁ……お姫様抱っことかを要求するわけじゃないけど……
アドリアンはそのまま私を抱えて駆け出す。おぉ、早い早い。
そのまま階段も駆け下りて……一階は火の海だった。階段の下には広間があり、そこから玄関に通じる廊下がある。
「あ、ごめん。通路が塞がってる」
多分アドリアンが二階に上がる前までは使えていた廊下だったのだろうが、焼け落ちた柱が倒れて廊下が塞がっていた。
……それにしてもごめんて。シュヴァリエの後継者をこんな危険な目に合わせてごめんて。
「困りましたね。プランBは?」
「プランBの前に担ぎ直していいか? さっきから腕に胸が当たって……」
顎に一発入れておく。近かったし。
「とりあえず手近な部屋に。窓を破って外に出ましょう」
「お、おう」
アドリアンは私を離すと近くの部屋のドアノブを握ろうとして……
「あちっ」
驚いたような顔をして手を離した。思ったより熱かったらしい。
思ったより熱かった?
前世で、そんな映画を見たことがあった気がした。
再びアドリアンがドアノブを握る。
「ダメ!」
アドリアンがドアを開けるのと同時に私は彼を突き飛ばした。
「なにするんだ!」
アドリアンがそう叫ぶのと、部屋の中から火の塊が飛んでくるように見えたのは同時だった。
バックドラフトだ。そうだよねぇー。
そのあと、アドリアンの大活躍によって私達は助かった。私は意識が朦朧としていてよく覚えていないけど。
大火傷は負ったけど生きているだけでラッキーだと思う。
そのあと、この火事は放火であることがわかったらしい。
犯人は元シュヴァリエ一族のケヴィンという人物だった。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科