葬送
書類仕事中に寝落ちてしまったのか……
お父様が普段仕事をしている執務机についたまま、くしくしと目をこする。
寝る直前に書いていたらしい書類を見る。
これは何語か?
とても前衛的な記号が並んでいる。これは書き直しだなー。がっかりだ。
気落ちしながら窓の方を見るとすでに日は高くなっていて、相当な時間を眠ってしまっていたことに気づいた。
秋は麦もそうだが、オリーブの収穫の季節だ。
私達がシュヴァリエ一族に関わるようになってから2シーズン目のオリーブの収穫で、今年は豊作だという報告も上がってきている。
ありがたいことだと思う。
ユーリお兄様の葬儀が営まれてからしばらくの時間が経っていた。
アメリーお義姉様はニコラが死んでからしばらくの間、泣き暮らしていたが、葬儀の間は涙を見せなかった。
それが逆に痛々しくて……なにもわかっていないジュリアンが笑っているのが悲しかった。
ジュリアンは物心がつく前に父親を失ってしまったわけで……家族みんなでその分の愛を捧げなければならないと思った。ジュリアンは幸せになる義務があるのだ。
ユーリお兄様の葬儀には辺境仲良しクラブの重鎮達やジャン・ヤヒア子爵だけでなくパスカル・シクスも参列し、また、敵であるはずのデュマ大公からも「稀代の文化人の死を悼む」というメッセージが届き、「北方の田舎者」扱いされることが多かったペドレッティ伯爵家の格が上がったように思う。
格なんかどうでもいいからユーリお兄様に生きていてほしかったけど。
葬儀の後、ジャン・ヤヒア子爵やパスカル・シクスを交えて家族会議を行った。ジャンさんはアメリーお義姉様のお兄さんなのでともかくとしてパスカル・シクスがいる段階で家族会議ではなかったんだけど。
アメリーお義姉様はその席で、実家に帰る意思はなく、これからもペドレッティ家の人間として扱ってほしいと頭を下げた。もちろん私達に拒否する理由はなかったのだけど、ジャンさんまでもが「妹をお願いします」と頭を下げたのは少し驚いた。
ユーリお兄様が亡くなった以上、ペドレッティ家の直系男子はベルナールお兄様のみであるため、お父様の後継はベルナールお兄様になることが確定したが、そのベルナールお兄様は「今後、セリーヌとの間に子供が生まれたとしても、俺の次に伯爵になるのはジュリアンであってほしい」とか発言し、私は「三国志の孫策の子供ってどんな扱いだったっけなぁ」と、少しだけ目からハイライトが消えた。
まぁ、ベルナールお兄様とセリーヌお義姉様がいいなら、それでいいのだけど。ベルナールお兄様が晩年の孫権みたいになるところはちょっと想像できないし。
窓を開ける。
朝の光……というには遅すぎる時間だった。
香ばしい香りがする。ぐるっと辺りを見渡して……んー、あまり見たくないものが目に入った気がしたので錯覚だと思っておく。
残暑だろうか。今日は暑いようだ。
家人の声が聞こえてくる。すごく微笑ましい。
大きく伸びをすると、悲鳴のような声が聞こえてきた。
なぁに? あっ、もしかして胸をそらしたら揺れちゃったりした? それを見てたとか? えっちー!
「ジェルメーヌ様が!」
「あぁ、なんでまだ……!?」
あぁー、もうちょっと現実逃避させてくれないかなぁ……
もうちょっとだけでいいから……
さて、私のいる執務室は普段お父様が仕事をしている場所であり、屋敷の二階にある。
もう一度下に目を向けて、ため息をつく。
暑いなぁ。暑いというより熱いなぁ。
「ジェルメーヌ様のことは確認しなかったのか!?」
「お部屋におられなかったのですでに避難されているものかと……!」
……あぁー、ごめんね。私がここで仕事をしていたのが悪かったか。
二階の窓からでもわかるほど、屋敷の一階が火に包まれていた。
どうしたらいい?
どうしようがある?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科