処断
「あ、アメリー嬢! 君からも私を助けるように言ってやってくれ! な!? ともに侯爵を支える仲間だろう!? それとも君も女王にしてやろうか!?」
はしゃぐ小者をアメリーお義姉様はほんの一瞬だけ見てから私達に視線を戻した。
「彼はなにを言っているんですか?」
「小者語ですからわかりません」
アメリーお義姉様は「なるほど」と呟いてからため息をつく。
「その……義姉上、申し訳ありません。私がついていればユーリ様がこのようなことになることはなかったのに……」
セリーヌお義姉様がアメリーお義姉様に頭を下げるのを見て、アメリーお義姉様は一瞬驚いた顔をしてから、苦笑した。
「ユーリ様は非常に女性差別をなさる方でした。セリーヌさんやジェルメーヌさんが戦場に出ておられるのを見て、自分にも力があればといつも悔いていらっしゃいました……仮にも戦乙女やコンダクターと呼ばれる人を戦場から遠ざけたがっていたんですよ? おかしいでしょう? ……だから、セリーヌさんがご無事だったのは、とてもユーリ様らしいなって、そう思うんですよ」
アメリーお義姉様の言葉にセリーヌお義姉様は、また泣きそうになっていた。
「で、アメリーお義姉様、この小者なんですけど……」
私の言葉にアメリーお義姉様は表情を消して小者を見た。
「ジェルメーヌさんやベルナールさんのお心遣いは本当に嬉しいんですけど……私に構わずに処断していただいてよかったんですよ」
あらま、気を回しすぎた。
「処断なんてことを言わずに助けると言ってくれればいいんだ! な!?」
小者の言葉をBGMにしながら、アメリーお義姉様が照れ臭そうに微笑む。
アメリーお義姉様にはじめて会ったときからずっと思ってるけど、この人、とても可愛らしい人なんだよなぁ。
「私、どうやったら一番痛くさせるか知らないんですよ」
それをアメリーお義姉様に一番知ってほしくないと思ってた人物がユーリお兄様だからね。
アメリーお義姉様はそんなことを考えちゃいけない人なんだから。
ベルナールお兄様とセリーヌお義姉様が小者を牢獄に連れていって……私にもなにをしてるか教えてもらえなかった。
お父様もちょっとだけ参加してたみたい。
4日後の夕食時に小者が死んだことがベルナールお兄様から伝えられたが、特にどうという感慨もなかった。
それを伝えたパスカル・シクスからは了解と、改めて謝罪の言葉が伝えられた。
その日から久しぶりに学園に登校する。
エルザのお父さんはパスカル・シクスの叔父にあたり、シクス家の分家の当主なのだが、今回の戦争で負傷したらしく、エルザはいったん実家に帰っていた。
美少女は……
「あの……ジェルメーヌさん、その……あなたのお兄様のことを聞いたのだけど……」
美少女はかわいそうなくらい落ち込んでいた。
ユーリお兄様のために悲しんでくれるなんて、いい子だなぁ。精神も美少女じゃん。
「私は悲しいわ」
私は苦笑しながら答える。
「でも、それはそれとして友達のお兄様が……あなたのお兄様が生きて帰ってこられたことは嬉しく思うの。本当によかったわね」
美少女は私に抱きついてわぁわぁ泣いていた。いい子だなぁ。感受性も美少女じゃん。
そして時は流れて、季節は秋になった。
お父様はちょうどアルテレサ伯爵のところに出かけていた。
アメリーお義姉様は仕事で悲しみを紛らわしたほうがいいというお父様の判断により、亜人に襲われた村の視察にセリーヌお義姉様と一緒に出かけていた。
ベルナールお兄様はパスカル・シクスの戦後処理を手伝うために出かけていた。
ジュリアンはアメリーお義姉様と一緒に出かける、というわけにもいかなかったけど、私も慣れているわけではないので年配のメイドに家に連れて帰ってもらってお世話をしてもらっていた。
家に残っていたのは私だけで、秋は収穫の時期だから書類のお仕事がかなり忙しかった。
「以前ジェルメーヌ様に教えていただいた簿記は役に立ちますなぁ」
「でしょ? わかりやすいでしょ?」
家宰のシャルルに答える。これでも前世では簿記2級だった。
その日までは、そんな仕事の日々だったのだ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科