傭兵
シュヴァリエとはなんぞや。
200年前に領地の北にあるスタッド山脈のさらに北の地から、迫害を受けてこの地にやってきた一族らしい。
「シュヴァリエの言い伝えを聞いたことがございます」
シャルルが説明してくれた。
「北の果ての地に住み着いていた彼らは、ある時からいわれなき差別を受け、北の果ての地に止まることができなくなり、亜人や魔物がひしめくスタッド山脈を越え、ようやくこの地に辿り着いたのだと。北の果ての地にいた当時は数千人いた一族も、迫害や山脈での苦難により、セリーヌ湖に到着したころには数百人程度にまで減っていたとか……今ではまた1万人近い人口がいそうではありますが」
北の果ての地というのはスタッド山脈のさらに北……王国の威信の届かない場所のことらしい。
んっ? それだけ聞くと普通に取引できそうな相手みたいだけど……
「数代前のペドレッティ伯であるフィリップ様という方が、シュヴァリエ一族によるセリーヌ湖周辺の占拠は不法であると……」
あ、なんかきな臭くなってきた。
「そして……シュヴァリエ一族と戦争になったのでございます」
あー……
「激戦であったと伝えられております……最終的にフィリップ様は討ち取られ、戦争はシュヴァリエ一族の勝利に終わりましたが、それ以来、険悪な状況が続いているのです」
それはしゃあないなぁ……
なにやってんだよ、ご先祖。ご先祖は課長か! もう課長さぁ、顔を思い浮かべただけで吐き気がするんだよね……
シュヴァリエ一族にとって課長ポジションが私達なら……それは嫌われてもやむなしである。吐いちゃう。
「……シュヴァリエは勇敢なやつらだ」
ぼそっとベルナールお兄様が呟いた。
「2年前にスタッド山脈から亜人どもが大挙して攻めてきたことがある。俺は軍を率いて防衛に当たったが、彼らは彼らなりに防衛の軍を出してくれていた……強いぞ」
ふむ。ベルナールお兄様が言うのなら確かなのだろう。
「槍をな、こう、投げるんだ。すごいぞ、あれは」
ベルナールお兄様、語彙少ないかよ。それは置いといて……
槍?
投げ槍?
シュヴァリエ一族の正体がわかった。
このゲームには正規軍だけではなく、傭兵を雇って戦争に参加させるシステムがある。
その傭兵でも、一部の土地を所有していることにより登場する特殊傭兵がいるのだ。
その一つが「ピルムス」と呼ばれる傭兵である。
ピルムは古代ローマ重装歩兵の装備であり長さ2メートルにも及ぶ投げ槍である。ピルムスは盾を装備し、弓を受け止めながら投げ槍で敵の盾を破壊するのだ。
なお、柄の部分は柔らかい素材が使われていて投げたピルムが敵に再利用されることがないように投げたあとは柄が曲がっちゃうようになっていたそうです。
やがてペルシャ騎兵によって蹂躙され、私の前世の記憶では5世紀ごろには絶滅していたといわれるこの武器を、ゲーム内のピルムスは使い続けていた。
設定資料集によれば一般的なピルムの有効射程距離は20メートル程度らしい。
しかし、このピルムスは50メートルを有効射程距離とするということだ。すごい。
このシュヴァリエ一族の一部がピルムスとして傭兵部隊として活動しているのだろう。
確かに特殊傭兵は一般傭兵よりも能力が高めで、味方に取り込めば力強い。賃金は高いが傭兵としては優秀だ。
ゲーム内では特に因縁があっても関係なく雇われてくれるシステムだったからなぁ。
考え込む私にお父様は笑みを浮かべた。
「ジェルメーヌの行動、すべてに私が責任を取ってやろう。好きにやってみなさい」
そう言いながらお父様はベルナールお兄様に顔を向ける。
「お前もジェルメーヌの交渉についていくか?」
お父様の言葉にベルナールお兄様は少し考え込んだ。
「……いえ、俺は俺のできることをしようと思います。さっき、ジェルメーヌが衛生と医療の強化が大事だと言っていました。衛生はその、オリーブオイルでなんとかなるとして、医療の方には心当たりがあります」
お父様はベルナールお兄様の言葉に頷く。
「わかった。任せたぞ」
必然的にみんなの視線がもう1人の方に向けられた。
「俺?」
ユーリお兄様がきょとんとした顔をする。
「俺は王都から脱出した2人の英雄を讃える詩を作らなきゃ」
それはそれで、とてもユーリお兄様らしいよ、うん。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科