第5話 魔女さんのお部屋です!
その魔女は紅かった。名前に相応しく。
ガウンも、その下につけたネグリジェも。髪が銀で、目は金色だが。
「先ほどはありがとう。魔族から追われている身でね、ペットの召喚獣に番をさせていたんだが、ペットの方がやられてしまって」
『朱砂の魔女』の名は、衣装だけに留まらない。
壁も所々紅い品々が揃っている。ベッドのシーツまで、真紅で統一されていた。
けれど血のような不快感はしない。
紅葉した山のような、温かみがあった。炎か太陽を集めているような気もする。
「口に合うかは知らんが、どうぞ」
紅き魔女から、紅茶とお茶菓子をもらった。魔女はリラックスしているのか、ローブを脱いでいる。
警戒心を解いたのか、リッコと同性だからか。
「ありがとうございます。えっと」
いけない。依頼人の名前を聞いていなかった。早速無礼を働いてしまう。
魔女はリッコの心を読み取ったかのように、クスリと笑った。
「私はソランジュ・オルセンだ。キミら人間からは、朱砂の魔女と呼ばれている」
銀の髪と尖った耳は、ダークエルフの特徴だ。
ソランジュはイスに腰掛けた。それでやっと、立ったリッコと同じ目線になる。
それだけ背が高いというべきか、リッコが低すぎるのか。
胸のサイズも、規格外と呼んでもいい。
リッコもトランジスタグラマーと呼べるが。
「リッコ・タテバヤシです」
挨拶をして、アーマーのカブトを取った。
「カワイイ顔をしているな」
そんなこと、言われたことない。ショートカットなので、あまり女の子らしくないとはよく言われるが。
「おおおお戯れを。では、いただきます」
紅茶をもらい、一息つく。だが、心底からくつろげていない。
お茶菓子のクッキーは、多少薬草クサいが、慣れるとイイカンジに美味である。
「ハーブを練り込んであるんだ」
「ははあ、それで独特の香りがするんですね?」
「キミのようなカワイイ女性が来てくれると分かっていたら、媚薬を入れていたかもな」
イタズラっぽく、ソランジュは目を細めた。
「冗談だよ。キミが、イグルを助けてくれたようだね。ありがとう」
薄い褐色の手で、ソランジュはオオカミの背を撫でる。
「どういたしまして。イグルちゃんっていうんですね」
イグルは、リッコの足に首をこすりつけた。
「おお、イグルがここまで人に懐くなんてね。さっきのヒゲなんて、ずっと吠えられっぱなしだったのに」
「ああ、そうでした。あのおヒゲの冒険者さんから、頼まれていたんです!」
リッコは、アイテムボックスから小包みを取り出す。