第1話 今日もソロ狩りです。はあ……。
リッコ・タテバヤシの冒険は、友人からの絶交宣言から始まった。
「え、絶交ですか?」
幼なじみから突然告げられた絶交発言に、リッコは愕然とする。
冒険者として同期となった、リッコの数少ない友人だ。これからも共に冒険するのだと思っていた。それだけに、ショックも大きい。
「どうしてですか、ヒラクちゃん? わたし、あなたを守るために『聖騎士』の職を得たというのに!」
リッコが纏うヨロイは、聖騎士の証である白銀の鎧だ。盾はドラゴンのウロコである。
「もう、リッコに守られてばかりは嫌なんだ! アタシも独り立ちしたい!」
ヒラクには、ヒラクなりに悩みがあったという。
「私はあんたにずっと守られてきた。でも、アタシはあんたを守れない! 助けてあげられない! 今までだって、アタシはあんたに一度も勝ったことがなくて」
「いいんです。あなたは側にいるだけで、わたしは勇気百倍なんですよ!」
「あんたのコミュ力が、マイナスに振り切れるんだよ!」
巷で「コミュ力オバケ」と称されるほど、ヒラクは社交性が高い。
リッコは何不自由なく、ヒラクを介して人と接していた。
だから、ヒラクがいなければ誰とも話す自信がない。
「でも、わたしはどうすれば。ヒラクちゃんがいなかったら、わたし、人とお話ができるかどうかも」
「あんたをそうさせてしまった責任は、アタシにある。だから離れたいの」
人見知りの激しいリッコは、ヒラクはなくてはならない存在になっていた。
だが、かえってそれがヒラクの重荷になっていたことを聞かされる。
「あんたはいつだって、アタシを守ってくれた。アタシでさえ気づかないうちに。けど、あんたが自力で友だちができないことに、気づいてあげられなかった」
「わたしには、ヒラクちゃんがいれば。ヒラクちゃんだけがいればいいんです」
「それじゃダメなんだよ!」
決して、安っぽいプライドのためではないのだと分かった。
「もう、アタシはあんたに頼りたくない。あんたがいなくても、誰かを守れる存在になる! だから、絶交して。アタシのためだと思って。アタシがあんたをキライなんじゃない。アンタにあたしをキライになって欲しいんだ。もう頼らなくていいくらいに」
「そんな!」
「お願いだ、リッコ」
ヒラクの意志は固い。リッコの説得も届かないだろう。
「知り合い一〇〇〇人だ。それか、アタシ以外にパーティ組みな。できるだけ多く。それまで絶交だよ」
「分かりました、ヒラクちゃん。今までありがとうございました」
「いつも守ってくれて、ありがとう」
リッコとヒラク固い握手をかわした後、互いに背を向けた。
あれから三ヶ月、リッコは未だにボッチのままである。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
「ここから先へは行かせません!」
白銀のヨロイを纏った両手を広げ、リッコ・タテバヤシは巨大な魔獣に立ち塞がった。
自身の数倍はあろう背丈を誇る魔物が相手では、いくら背伸びしても威嚇にすらならない。
それでも後ろにある街を守るため、リッコは獰猛な爬虫類の顔と睨み合う。
「こんな大きな魔獣がいるなんて、聞いてませんよ!」
数刻前、リッコは「街へ入ろうとする魔獣の討伐」を依頼された。
このエリアは、モンスターの進行方向から大きく外れている。『魔女の森』を挟み、街からも遠い。
モンスターからすれば、攻め込む旨味はないはず。森を迂回した方が楽だ。
なのに、どうしてここまでの巨大な怪物が?
二階建ての家くらい大きい。腕や足は、丸太二つ分くらいの太さを持つ。
群れと聞いていたが、この魔獣は単独で行動していた。はぐれたか、もしくはこの魔獣が群れのボスなのか。
他の冒険者たちも、それぞれ別方向に現れたモンスターの撃退に当たっているはず。しかし、こんな巨大生物など確認していない。
考えるより動く。こんな化物が街に入ってしまえば、大惨事は免れない。
矮小な存在であるリッコには目もくれず、魔獣は森へ入ろうとした。森を突っ切って、街へ直進する気だろう。
そうはいくか。全力で止めねば。
「逃がしません!」
魔獣の進行方向を、身を以て塞ぐ。ヨロイと同じ、白色のヒーターシールドを構えた。ホワイトドラゴンのウロコで作った特注品だ。
「お覚悟を! すりゃああ!」
リッコはモンスターの首に組み付く。人間でありながら、冒険者学校ではドワーフに腕相撲で勝った。身体能力には自信がある。
だが、魔獣はあっさりとリッコを振り払った。
上空高く、リッコは舞い上がる。
だが、狙いを定め、リッコは急降下した。ヒーターシールドを、足場代わりに蹴り込む。
ジャストな位置に、降下できそうだ。さすがは、ドラゴンのウロコを改造しただけある。
「シールド、キーック!」
そのまま体制を整え、リッコは魔獣の脳天を踏みつけた。
脳しんとうを起こしたのか、魔獣はズシンと白目を剥いて倒れる。
落ちてきたヒーターシールドを、リッコは上腕で受け止めた。そのまま装着する。
「あとは、これですね」
リッコは、剣を抜く。魔獣の角を、スパンと切り落とした。これが、討伐の証拠となる。
「大きな角ですね。そのまま、魔法使いの杖になりそうですね」
誰に聞かせるでもなく、独り言をつぶやく。
リッコには、パーティがいなかった。
いわゆる、ぼっちである。