表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

VOL.08:捜索隊、活動開始

 一方、その頃――

「ここが人間界か。すごいな、見たことないものだらけだ」

 ゲートを超えて人間界側に出てきたキララ捜索隊の6人。引率兼指揮官のマリアだけはまだ学生だったころの修学旅行と、新婚旅行で人間界を訪れたことがあるので特に感動などはなかったが、今回初めて人間界を訪れるガレリアたちは、上空から見下ろして、きゃっきゃっと騒いでいた。――ただ1人、ロックを除いては。

「はいはい、これは遊びじゃないのよ。3ヶ月以内にキララを見つけ出して学園に連れ戻さないと、キララは退学、私も理事を解任されて、君たちもすぐに向こうに戻ることになるわ。だけどもし、早めに事が片付いたら、私の監督のもと、少しだけなら人間界(こっち)を見て回ってもいいと理事長に許可を得ているわ。だから、人間界を見て回りたいなら、早くキララを見つけましょう」

 マリアが少し呆れたようにはしゃぐロック以外の4人をたしなめつつも、ご褒美をちらつかせる発言をした。すると、

「なんだ、だったら話は早い。さっさと探しに行こうぜ」

 はしゃぐ4人を尻目に周囲の様子を窺っていたロックが、ポツリと口を開いた。

「そうね。でも、私は昔人間界に来たことがあるんだけど、この世界、ハルゲンファウスと違ってものすごく広いのよ。だから、ある程度予測を付けて捜索に出ないと効率が悪く――」

 マリアも分かっているようだが、人間界の広さにどうしようか迷っているように見えた。と、

「アイツの性格から考えて、魔力切れとかの事故でもない限り、発展している国の、人の多い所にいると思う。“木を隠すなら森の中”じゃないけど、魔法を使って人間の群れの中にうまく潜んでいるんじゃないかな」

 ガレリアがキララの性格を分析し、潜伏場所を推測しはじめた。

「えーと、じゃあ、どこから行く? 私、いつか人間界に行きたいと思って、通販で人間界観光ガイドを買って、持ってたんだ。これによると、この世界は国が200近くあって、全部で60億くらいの人間がいるんだって。すごい数だね。でも、全部の地域に均等に住んでるわけじゃなくて、たくさんの人間が住んでいる国はホント少ししかないみたい。ガレリア君の言ったことを信頼するなら、“あめりか”ってとこと、“ちゃいな”ってとこと、“じゃぱん”。発展しているところなら“あめりか”と“じゃぱん”。人が多いところなら、“あめりか”と“ちゃいな”が当てはまるかな。他にも人が多い国はあるけど、たぶん、今挙げた3つの国のどこかにいるんじゃないかなと思うんだけど、どうかな?」

 ティアナがカバンから出したのは、ハンディサイズの世界観光ガイドだった。それを見ながらガレリアの分析を手伝うようなことを言うと、

「うーん、残念だけど、“あめりか”はハズレね。私たちがいまいるのが、その“あめりか”、すなわちアメリカ合衆国の上空なのよ。この世界の人間は魔力を持ってないから、あの子くらい高い魔力なら、なにもしてなくても感じ取りやすいはずだし、感知できる範囲も、広いこの国を十分カバ−してるから、この国にはいないことがわかるわ。ティアナさんとガレリア君の2人の分析を参考に、“ちゃいな”――中華人民共和国と“じゃぱん”――日本国のある地域へ向かいましょう。そこで、私に考えがあるわ」

 マリアは首を振ってアメリカの可能性を否定すると、5人に不可視魔法(バニス・ライトゥンを使うよう指示し、西へ飛び立った。




 そして、白稜ヶ丘学院高校。

「じゃあ、次の問題を……よし、佐伯、佐伯 遼のほう、答えてみろ」

 とある授業にて、遼が当てられていた。だが……

「ZZZ……」

 遼は苦手な数学で、授業開始早々、爆睡モードに入っていた。

「ちょっと、遼、当てられてるよ。起きなよ」

 隣の席にいるキララが遼の肩をたたいたりつついたりしてみるが、一向に遼が起きる気配はない。

「おい、佐伯ー? ほほう、この渡井の授業で寝るとはな。なかなかいい度胸してるじゃないか。よろしい、そういう不届き者にはプレゼントだ」

 担当講師の渡井(わたい)は、遼が寝ているのを確認すると、教科書を持ってつかつかと近づいてきた。そして、遼の横に立つと、――ガツン! という鈍い音とともに、教科書の角を振り下ろした。

「い……ってえ〜〜!!」

 さすがに角で殴られてはたまらず、遼は飛び起きた。本当は殴った相手に文句をつけたかったが、この渡井を相手にするのは分が悪いと、睨みつけるだけにした。

「ん? なにかなその目は、佐伯 遼。授業中に寝るような不届き者には制裁を、それが私のルールだ。文句があるなら聞くが?」

 渡井が遼を見下ろしながら訊くと、

「なんでもねえ、と言いたいとこだけど、あえて聞きます。そうやって殴るのは体罰じゃないんですか」

 まだ痛みが消えないのか、頭をさすりながら遼は渡井に訊いた。

「はは、体罰とは人聞きが悪い。私のコレは、いわば愛のムチだ。大切な授業中に寝ていて、成績が下がっては困るだろう? それを防ぐため、私は叩くのだ。まあ、昔はもっと優しく肩を手で叩いて声をかける程度だったんだがな、それだと効果が薄いのでな、やむを得ず教科書の角(コイツ)を使うことにしたのだ。わかってくれたかね? ああ、このやり方はPTAにも認められてるから、訴えても効果はないと言っておく。では、あの問題を解いてみろ」

 渡井は自信に満ち溢れた顔で遼に言うと、前へ出て問題を解くよう命じた。

「……すいません、わかりません」

 だが、当然寝ていた遼に解けるはずもなく、あえなく撃沈した遼は、廊下に立たされるハメになった。――両手にバケツを抱えて。



「ったく、いつの時代だよ……教科書の角で殴るわ、両手にバケツ抱えて廊下に立たせるとか」

 放課後、遼は帰り仕度をしながら、一緒に帰る約束をしているキララ、いずみ、俊にグチをぶちまけていた。

「そうね、角はともかく、両手にバケツは危うく笑いそうになったわ。マンガの中だけだと思ってたのに、まさか現実でやるなんてね」

 いずみは今さらおかしくなってきたのか、笑い出してしまった。

「まあ、渡井はもう定年近い年齢だから、行動が昔っぽくても仕方ないんじゃない? ってか、アレはもう寝ていた遼が悪い」

 俊は渡井の年齢から行動そのものは仕方ないと笑い飛ばしたが、はっきりと遼が悪いと断罪した。

「いやだって仕方ないだろ? 自然に眠くなっちまうんだから」

 遼があせって言い訳すると、

「眠くても、耐えるのが当たり前なの。まったく、従妹のキララさんはこんなにも頑張っているのに、なんでかしらねー」

 今度はいずみがばっさりと切り捨てた上に、従妹として通しているキララと比較するようなことまで言い出した。

「うぐ……」

 さすがに言葉に詰まる遼に、

「だったら、寝ないようにするのは完全に遼自身の努力だけど、もし寝ちゃったら、あたしが横からつついて起こすのはどう?」

 キララがそう提案してきた。

「ああ、それいい! キララさん、もし遼が寝てたら、思いっきりやっちゃっていいからね」

 遼は何も言わなかったが、いずみがノリノリで許可してしまった。

「うわ、それちょっと羨ましいな。そうだ、遼、席交換しない? うぎゃっ!」

 俊が案の定羨ましそうな表情をしたかと思うと、すぐさま遼に席交換の話を持ちかけたが、いずみが俊を張り倒して話を打ち切ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ