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VOL.07:キララ、学校へ

「それじゃあ、職員室はあっちだからな」

 翌朝、遼とキララは一緒に登校し、昇降口を入ったところで別れた。

「うん、あとでね」

 キララは頷くと、遼が向かった方とは逆の階段を上り、職員室へ向かった。


「遼、おはよう。なあ、聞いたか? 今日からこのクラスに転入生が来るんだって」

 遼が教室に入るなり、先に来ていた俊が近寄ってきた。

「ああ、知ってる。なんせオレの従妹だからな」

 遼はなんでもないことのように俊に言ってやると、教室内の野郎どもがざわめいた。

「遼、いま……転入生は従妹って言った? 遼に同い年の従妹なんていたっけ?」

 俊は聞き間違いかと思い、もう一度確認するように聞き返すが、

「ああ、オレ自身つい数日前に知ったばかりだからな。お前らが知らなくても無理ねえよ。詳しい話はみっちゃんか本人からされるだろうけど、生まれてからずっと外国で育ってきてるから、一応日本国籍は持ってるけど名前が外国風なんだ。……って、なんでお前らそんなに複雑な表情してんだよ」

 遼は机にカバンを置きながら、周りの野郎どもがうらやましそうな表情だったり、今にも殴りかからんばかりに憤怒の表情だったり、いろんな表情をしているのに気付いて訊ねた。

「最終確認だが、佐伯。その転入生は、お前と一緒に暮らしてたりは――しないよな?」

 周りを固める野郎どもの1人が祈るようにそんな疑問を投げかけると、

「ん? 一緒に暮らしてるぞ。いろいろな事情でうちしか住むところがなかったからな。部屋も余ってたし、何も問題ない」

 遼がこともなげに答えると、俊以外の野郎どもは希望が潰えたとばかりにガックリとその場に崩れ落ちた。しかし、ただ1人、俊だけは――

「よしっ! 遼! 今夜から俺も泊めてくれ!」

 俊は唐突に遼の肩をつかむと、とんでもないことを言い出した。

「なに馬鹿なこと言ってやがる。来てももうお前の泊まる部屋なんかねえぞ。つーわけで、来・ん・な!」

 遼は呆れたように俊を突き放すと、俊は「やだー、俺も女の子と一緒に寝泊まりしたいのー」などと駄々っ子のように床をごろごろ転げまわっていた。と、そこでようやくチャイムが鳴り、担任のみっちゃんこと、光本(みつもと)が入ってきた。

「やっほー、みっちゃん。おはよーっす」

 クラスの面々が口々にみっちゃん、みっちゃんと挨拶をすると、

「ほらほら、HR始めるわよ。そこで転げまわってる川崎くんはさっさと席に着きなさい。10秒以内に席に着かないと欠席にするわよ。っていうか、みっちゃんというのはやめなさいといつも言っているでしょう」

 光本は呆れたように注意すると、俊にやんわりと脅しをかけ、さすがに俊も欠席扱いにされるのは困るので、素早く立ち上がって席に着いた。と言っても、遼の2つほど前の席と近い場所にいたので、すぐに席に着くことができた。

 ちなみに、みっちゃんこと光本 和美(かずみ)は、今年27になる遼たち2年1組の担任なのだが、初対面の人にはほぼ100%先生に見られたことがないほどの童顔なのだった。事実、春に赴任してきた日の朝、遼は廊下で光本とすれ違った際に職員室の場所を聞かれ、てっきり編入してきた生徒だと思った過去があったのだ。今ではいい笑い話になっているが。

「さて、と。たぶんある程度は知ってるだろうけど、今日からこのクラスに新しい仲間が加わることになったわ。それじゃ、入ってきなさい」

 光本はさっと切り替えると、転入生がいると話し、入ってくるように促した。

「うおおおおお!」

 と、入ってきた転入生――キララがかなりの美少女に分類される容姿だったので、入ってきた瞬間に野郎どもの野太い歓声が響いた。と、そのとき。野郎どもの歓声に驚いたのか、教壇に上がろうとしたキララが足を躓かせた。

「きゃあっ!」

 ドタン! という大きな音をたてて、キララは派手に転倒し、教壇に顔面を強打した。その際、制服の内側に忍ばせていた杖が制服のブレザーの胸元から飛び出し、カラカラという音とともに転がっていった。

「あ……」

 あまりに強烈な第一印象に、教室内が一瞬静まり返った。

「キララさん、大丈夫ですか?」

 光本がハッとしてキララを助け起こすと、結構顔面を強打した割には、どこも腫れたりしてなかった。

「じ、じゃあ、自己紹介をして。あと、はいこれ。なんだかよくわからないけど、学校に関係ないものは持ってきちゃダメよ?」

 気まずい雰囲気を打ち破るようにつとめて明るくふるまい、光本はキララが落した棒きれ――杖を拾って渡しながら、自己紹介をするよう促した。

「は、はい。皆さん、初めまして。キララ=シュプールといいます。生まれてからずっと外国で暮らしていて、今回家庭の事情で初めて日本に来ました。この1週間ほどで、従兄であることを知らされた佐伯さんのおかげでだいぶ慣れてきましたが、まだ不慣れな点も多いため、いろいろとご迷惑をおかけすることになると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

 キララはあらかじめ遼といずみで作って暗唱しておいた自己紹介の文面をすらすらと読み上げた。

「とまあ、そういうわけなんだけど、家庭の事情というのは私も詳しく把握してるわけではないの、というより本人が話さない限りは詮索するな、との学長の通達です。当然、従兄であるらしい佐伯くんとの関係も本人たちから話さない限り、詮索は無用ということです。さすがに私はまだ職を失いたくはないので、頼みましたよ。それじゃ席は――やはり佐伯の隣がいいな。すみませんが、佐伯くんの隣から後ろにいる子たち、ひとつずつ後ろにずれてください。それじゃ、今朝は号令はなしで、もう終わりでいいわ」

 いったい朝の職員会議でなにがあったのか、光本は少し疲れた顔で席の指示だけすると、さっさとHRを終わらせて、教室を出て行った。



 昼休み、遼はキララ、いずみとともに屋上へ上がってきていた。俊がいれば、俊も一緒に来たがっただろうが、いろいろと面倒なので、俊がトイレへ行っている間に逃げるように3人で屋上に来たのだ。

「キララさん、顔は大丈夫?」

 いずみが今朝キララが強打した顔面の心配をして訊ねると、

「ええ、私たち魔法使いというのは、普段から身体の周りに、身を守る防御障壁を張っているんです。それのおかげで、今朝は助かりました。さすがにノーガードであれだけ強く打ってたら、ただじゃ済みませんからね」

 キララは笑いながら話していた。

「で、午前中の授業を受けてみて、どうだったんだ? こっちの世界の勉強は、向こうの優等生でも一筋縄じゃ行かないんじゃないか?」

 遼がニヤニヤ笑いながらキララに訊ねると、

「そうですねー、確かにかなり難しいです。でも、こっそり魔法を使って理解力をあげてましたから、なんとかなるかな、ってとこですね」

 キララはいつの間にか魔法を使っていたらしく、そんなことをのたまった。と、そのとき。

「ああ、こんなとこにいた。遼、俺を置いて行くなんてひどくね? いずみんにキララちゃんも一緒なのに、俺だけ仲間外れとか、何の陰謀だよ」

 屋上の扉が開き、俊が現れた。どうやらずっと探しまわっていたらしく、少し息が乱れていた。

「あたしをいずみんって呼ぶなって言ってんだろうが」

 いずみは俊の登場と発言に不機嫌になり、苦虫をかみつぶしたような顔で俊に文句を言った。

「つーか、いずみはともかく、キララがいるときに、下心まる見えのお前がいることほど危険なことはない。あえて置き去りにしたことくらい察しろよ」

 遼は言ってから少しして、しまった、と思ったがもう遅い。

「遼? お前……あたしはともかく、ってどういう意味だコラァ!」

 遼の隣でいずみがこめかみに青筋を浮かべていた。

「わりぃわりぃ、ちょっと口が滑った。でも、事実だろ? いずみなら、たとえ俊に襲われても、返り討ちにしちまうだろうし」

 遼は軽く謝りつつも、本気で悪いとは思っていない口ぶりだった。

「いやまあそうかもしれねえけど……でも、キララさんだって……いや、なんでもない」

 おそらくいずみはキララには魔法があるんだから、と言いかけたのだろうが、その場にまだ秘密を知らない俊がいることを思い出して、曖昧に言葉を濁した。

「さて、と。そろそろ教室戻るか。昼休みも終わりそうだしな」

 遼もいずみの言いたいことは想像ついたが、不用意にごまかすような発言をして俊に不審がられてはマズいので、いずみの発言は聞かなかったことにして、時計を見てみんなにそう告げた。

「そうね、そろそろ戻らないと、次の漢文のなっちゃん、来るのだけは異常に早いからね」

 いずみも携帯で時間を確認すると、昼食の弁当を片付け、遼やキララと一緒に屋上を後にした。

「???」

 ただ1人事情を知らない俊だけが、首をかしげ、そしてまたしても置いて行かれたことに気づき、あわててあとを追って教室へ戻って行った。

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