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VOL.05:ある日、街中にて

 その頃、トラフェルス学院がそんな事態になっているとは露ほども思っていないキララは――

「ん〜っ、学院の束縛から解放されるのがこんなにも楽しいなんて、想像以上にサイコーの気分ねっ! ね、遼♪」

 買い物の袋をゆらゆらと振り回しながら、キララは遼とともに歩いていた。

「ん? オレはそっちの学院とやらの様子は知らないからなんとも言いようがないけどな。しかし、今日はずいぶん買い込んだな。ウチのどこにこんなお金があったんだか」

 着の身着のままでハルゲンファウスを飛び出してきたキララには当然着替えなどあるはずもなく、また、遼は一人っ子で女の子の服なんて持っていないため、日曜日を利用して買い物に来ていた。

 キララがどんな言い訳でみずきを納得させたのかはわからないが、2人が買い物に行くと言ったところ、みずきは資金として、10万円を手渡してくれたのだった。

 そうして大量に買い込んだ荷物の大半をキララの魔法で転送し、少なめにした荷物を持った2人はのんびりと街を歩いていた。

 遼は最初こそ空想の産物だと思っていた魔法の存在に驚いていたものの、キララがやってきて数日が過ぎた今では、まだ少し興味本位な部分は捨て切れていないが、きちんとキララを従妹(いとこ)として扱っていた。


「そういえばキララ、お前学校はどうするつもりだ? オレと同い年の従妹なら、通ってないと不自然じゃないか?」

 そんな帰り道、ふと遼がキララに訊ねた。

「あ、うん。それは抜かりないわよ。明日から、遼のクラスに転入する手はずは整ってるわ」

 ふふん、と大して成長の見られない貧相な胸を張ってキララは答えた。

「遼? あなたいま何か失礼なこと考えなかった?」

 キララが懐の杖を取りだそうとしながら、横目で遼を睨みつけると、

「ん? 気のせいだろ。それより、わかってるとは思うがこの世界は魔法なんてものは存在しないんだから、極力人前で使うなよ。こんな往来で杖を出すなんて論外だ。上手く服の中に隠しておけよ」

 遼は話をはぐらかすと、念を押すようにキララに注意した。すると、

「うん、わかってるわよ。でも、私はこの世界の勉強は全くわからないから、それを理解するための補助に使うのは構わないでしょ?」

 キララは例外を認めるように要求してきた。

「そういう例外うんぬんは置いといて、オレが本当に言いたかったのは、多少のフォローはできても、完璧なものは期待するなってこと。バレてもフォローしてくれるだろうからいいや、なんて考えを持つよりは、細心の注意を払って、極力バレないようにするのが一番だからな」

 遼がキララを諭した、そのとき。

「何がバレちゃマズいの?」

 何者かの声が響いた。

「その声は……いずみか。お前、どっから沸いて出たんだよ」

 その声に遼が振り向くと、電柱の陰から茶髪ショートカットの少女が出てきた。

「やだな、あたしを虫とかみたいに言わないでよ。散歩に出たら、遼が見知らぬ可愛い女の子と楽しそうに歩いてるんだもん、幼なじみとしては気にならないはずないでしょ。で、その子は誰なの?」

 茶髪の少女、いずみはケラケラと笑うと、遼に訊ねた。

「ああ、こいつはオレの従妹のキララだ。オレ自身も最近知ったんだが、外国で生まれ育って、諸々の事情で日本(こっち)で暮らすことになったってわけだ。キララ、この口やかましくて粗暴な女は、不本意ながらオレの幼なじみ、柳沢(やぎさわ) いずみ――」

「誰がっ! 口やかましい、粗暴な女だってえ!? しかも不本意ながらとか、どういう意味よっ!」

 遼はキララにいずみの紹介をしようとしたが、途中でいずみの豪快なドロップキックが炸裂し、数メートルほどすっ飛んだ。

「いずみ……てめえ人が紹介してるときにドロップキックかますなんて、なんてことしやがんだ」

 遼がふらふらと立ち上がって埃を払いながらいずみに文句を言うと、

「あんな紹介されたら、あたしじゃなくたって怒るわよ! 何よ、“不本意ながら幼なじみ”とか、“粗暴”とか、“口やかましい女”だとか、とても初対面の子に対してする紹介とは思えないんだけど」

 いずみは遼の文句などどこ吹く風でいまだに吼えていた。

「まあ、初っ端からあの紹介は間違っていたかもしれねえが、それに対するツッコミでお前は自ら粗暴って点を認めたも同然だぞ。ついでに言えば、さっきからお前の声、響きすぎ。これで口やかましい女も肯定、と。これだけの条件があれば、幼なじみとして不本意ってのもわかると思わないか? なあ、キララ」

 遼はニヤニヤと笑いながら、いずみの行動をひとつずつ挙げて、自分の発言を肯定しようとした。

「あ、あはは……どうなんでしょうね〜」

 急に話を振られたキララは苦笑いでごまかすことしかできなかった。否定も肯定もしないその様子に、

「う、うぅ〜」

 いずみはただ唸ることしかできなかった。



「……じゃあ、キララさんは明日からうちのクラスに転入してくるんだ」

 ひととおり落ち着きを取り戻したいずみは、細かい事情を聞いてうんうんと頷いた。

「そういうわけだ。じゃあ、オレたちはそろそろ帰るぜ。買い物の荷物がなかなか重いからな」

 遼はそう言うと、いずみと別れた。

「いずみさん、遼とはいつもあんな感じなの?」

 いずみが見えなくなったところで、キララが遼に訊ねた。

「ああ、ガキのころからずっとあんな感じだ。クラスもずっと一緒の腐れ縁ってやつだな。だからこそ、女子のなかでは一番信頼してるんだが、こんなこと言うとアイツが調子に乗るから黙ってろよ」

 遼は笑いながら言ったが、キララには黙ってるように念を押した。

「あ、そういえば……女子のほうでもキララをフォローするヤツが必要になるよな。トイレとか、更衣室でのことはオレじゃどうにもならんし。キララ、いずみに全て話してアイツにフォローしてもらうのでいいか?」

 遼がふと気づいたことをキララに訊ねると、

「もちろん、いいよ。他に適任もいないだろうし、私はいずみさんのこと結構いい人だと思うしね」

 キララは笑顔で頷いた。

「じゃあ、一旦荷物を家に置いて、アイツを公園にでも呼び出すか」

 遼はそう言うと、周囲に誰もいないのを確認して、キララの魔法でテレポートし、その場から姿を消した。

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